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「あんたってさ」
『うん』
「カルピンに似てるよね」
ラケットのガットを指で弄びながら越前はこっちも見ずにそう言った。
カルピンとは越前家の飼い猫で、それはそれは越前に可愛がられている。そのカルピンと私が似ているというのだ。どういうことだ。
『どこが』
「さぁ?」
首を傾げた越前は本当にわからないというような顔でラケットをケースにしまった。
なんじゃそりゃ。フィーリングとか。
『猫みたいってこと?』
「んー……そうじゃないんだよね。あくまでカルピン」
『意味わかんない』
「俺も」
カルピンねぇ……そもそも私人間だし。声だってカルピンほど低くないし。どこが似てるのかさっぱり。
越前はラケットケースを肩にかけ部室から出ていこうとする。私は急いで部誌を書きあげて越前の後姿を追った。
「あ」
息をきらしながら越前に追いつくと、小さく声を漏らして私を振り返った。どうしたの、と聞けば、それだ、なんて言う。何が。
「俺を追っかけてくる感じ」
『それが?』
「カルピンっぽい」
『何だそれ』
「さぁ?」
少し笑ってそう言う越前は、私の手を攫って、再び歩き出した。