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『河村くん』


自分の席で珍しくうとうととしていたので肩をとんとんと叩けば、河村くんははっとしたように起きた。河村くんは、はずかしいところ見られちゃったな、なんて笑っている。


『昨日もお寿司の特訓?』
「それもあるけど」
『また夜遅くまで素振りしてたんじゃない?』
「あはは、ご名答」


テニス部レギュラーでもあり家業のお寿司屋さんを継ぐ河村くんにとって、きっとこの時期は大切なものなんだろう。全国大会も控えていれば、自分の将来も考えなければならないそんな多忙な日々につかれないわけがない。それに河村くんはきっとつらいことも苦しいこともため込んでしまう人だ。


『ねぇ、河村くん』
「うん?」
『無理だけはしないでね』


河村くんは嬉しそうに笑って私の頭を撫でた。その手は大きくてとっても温かくて安心する。でも安心するのは私ばっかりで、それはとても不公平だから、はい、と手の中のものを渡せば私の中のぬくもりは河村くんにうつっていく。


『ホットココア。これ飲んで頑張ってね』


まだ大人になりきれないだろうから。そう言えば、少し驚いた顔をした河村くんは、目を細めて笑った。



▼将来も大事だけど、今は全国大会を大事にしたい河村くんへ
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