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『ねぇ、なんでそんなに髪の毛綺麗なの?』


と一度聞いたことがある。
私の目の前の席に座っている伊武くんはそれはそれは綺麗な髪の毛だ。プリントを配るために後ろを向くたびに伊武くんの髪の毛はさらりと流れて、私はそれだけでうっとりとしてしまう。うらやましい。髪が命と言われる女の私なのにくせっけだし、なんかごわついてるし、最悪。手入れの仕方がいけないんだろうけど。


「別に綺麗とかじゃない」
『そうかなぁ?』
「っていうか早くプリントとってくれない?君のところでつっかえてるんだよね。後ろの人に迷惑そうに見られるてるし。やになるなぁ」


はいはいごめんごめん。なんて言って、恨めし気に見てきた伊武くんの手からプリントを受け取る。
ふうん、今日の宿題か。やる気起きないな。伊武くんの髪の毛を見続けるっていう課題なら喜んでやるのに。
黒板に集中し始めた伊武くんを見上げる。そこにはあの綺麗な髪の毛があって、鉛筆を動かすたびに、黒板を見るたびに、さらりさらりと流れていておもしろい。一度でいいからあの髪の毛に触って、感触を楽しんで、思いっきり顔を埋めてみたいと思う。でもそんなこと伊武くんの目の前で言ってしまったら絶対変態扱いだ。いやそれどころじゃない、伊武くんとさよならばいばいかもしれない。それだけはいやだなぁ。


「ねぇ」
『へ』
「俺梓月のそういうところ嫌なんだよね。話しかけてもずっと上の空とか人としてどうかしてるよね」
『ご、ごめん……』
「まぁいいけど。とりあえずさっさと解き方考えてくんないかな。っていうかさなんで前後なわけ?わざわざ振り向かなくちゃいけないとかホントやになるよなぁ。それに二人一組で解き方考えるとか意味がわからないんだけど」
『それは先生に言ってよ』


苦笑しながら言えば、伊武くんは私をちらっと見上げて、教科書を鉛筆で叩いた。集中しろってことらしい。伊武くんのぼやきのせいなんだけど。あと髪の毛。
それにしても間近で見ると伊武くんの睫長い。肌も白いし綺麗。なんだかこうやって見てるとすっごく胸がドキドキしてきた。もっと見ていたい。だというのに、先生が解き方わかった人から黒板に出てきて書いてーなんて言ってる。


「あーあ、ほら梓月がさっさと解かないから」
『ごめんっ』
「いいよ、俺解けたし。俺が書いてくる」
『えっ、でも』
「一人でやった方が効率いいんだよねこういうの」
『それでもやっぱり悪いよ。私何もしてないし……』
「……じゃあ、君の髪の毛触らせて」
『へ』


そう言った伊武くんは、席をたって黒板に書きに行った。
え?伊武くん今なんて……髪の毛を?伊武くんに?触らせる?意味が分からない。それはこっちのセリフなわけで。さらっさらの伊武くんにごわごわの私の髪の毛を触らせるなんて。さっさと書き終えて席に戻った伊武くんに、なんで?と問いつめれば、唇をかたく閉じた伊武くん。その顔はちょっぴり赤くて、私から思いっきり目線を外していて。


「ああもうなんでこういうこと言わせようとするかなー察しろよホントやんなっちゃうよなぁ」
『ごめん……』

「謝らないでよ、余計恥ずかしくなるんだよねそういうの」
『……』
「好きだから」
『えっ』
「なんで聞き返すかなぁ。こういうことはちゃんと聞き取ってよ……言っとくけどもう言わないからね」


そう言って前に向き直ってしまった伊武くん。
伊武くんが私を好き?そんなまさか。そんなことがあっていいのだろうか。なんてことも考えてたけど、気が付いた時には私は彼の髪の毛に手を伸ばしていて。軽くひっぱったあと耳元で、私も、なんて答えていた。
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