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私には幼馴染がいる。
名前は遠山金太郎。みんなからはよく金ちゃんなんて呼ばれてて、私も数年前まではみんなと同じように呼んでいた。そう、数年前までは。


『遠山くん、進路希望のプリントもう提出しなきゃなんだけど』
「えっ、もう!?ワイまだ全然書いてへん……」
『そっか、じゃあ先生に言っておくね』
「堪忍なぁ」
『ううん、大丈夫』
「……なぁ、てん」
『!』
「……やっぱなんでもない」


金ちゃんはそう言って少しだけ眉を下げながら笑った。
高校に上がって、金ちゃんは今まで以上に大きくなって、どんどんかっこよくなった。それと同時になんだか雲の上の人みたいに感じちゃって、近寄りづらくなって、高校に入ってから今年一緒のクラスになるまで目も合わせなかったし、話なんてもってのほかだった。金ちゃんも金ちゃんで、彼女ができたなんていう噂しょっちゅう聞いてたし、きっと私のことなんて忘れちゃったんだろうなんてそう思ってた。でも、時々金ちゃんは、私を下の名前で呼ぶ。昔みたいに。
進路、か。
私たちももうすぐ受験生になる。大学に行ったり、専門学校に行ったり、就職したり。みんな本当にバラバラになってしまう。忙しくて新しい生活にまぎれ、きっとどうでもいい一クラスメイトの顔なんて忘れてしまうんだろう。
金ちゃんも。金ちゃんもきっと私の顔なんて忘れちゃうんだろうなぁ。
私は自分の進路希望のプリントを見てため息を吐いた。もう一度見直せと先生につき返されたプリント。見直したってなんも変わらないのにね。重い足取りで教室に戻ってくると、その教室には一人、金ちゃんがいた。机の上にはまっさらなプリントがあるけれど、シャーペンを弄びながら窓の外を眺めていた。気まずい。金ちゃんに気付かれないうちに帰ろうと、自分の机に行くと、勢いよくこちらを向いた金ちゃんと目があった。


「てんやん。まだ帰ってなかったん?」
『う、うん』
「あ、それ進路希望のプリント?」
『そうだけど』
「ふうん」


金ちゃんは自分のプリントを持って、私の前の席の椅子をひっくり返して座った。一緒に書こう?なんて言って、私に座るよう促した。帰ろうと思っていたのに。私と金ちゃんの間に沈黙が長い間流れる。すごく気まずい。早くこの場から離れたくて、金ちゃんに水飲んでくると言って席をたとうとしたけれど、それは金ちゃんの手が私の腕を掴んだことによって阻止されてしまった。


「なんで?なんでてんはいつも逃げるん?」
『に、げてない』
「そんなん嘘や」
『嘘じゃない』
「じゃあなんでワイの目見てくれへんの?」
『……っ』


そんなの見れるわけない。せっかく自分と金ちゃんは違うんだってやっと納得できたのに。一生蓋をして忘れてしまおうと思ったのに。今金ちゃんの目なんか見たら、好きがあふれてきちゃうじゃない。


「なぁ、てん、ワイずっとてんのこと見ててん」
『それって』
「ずーっと好きやった、今もてんのこと大好き。ずっと我慢しとった」
『……ごめん』
「なんで謝るん?ここは褒めてーな!ワイてんにふさわしい男なろう思って頑張ったんやで!」
『金ちゃん』
「……もう名前で呼んでくれんのかと思とった。すごくうれしい」


金ちゃんは綺麗に笑って、そしてそのまま私を抱きしめた。
あったかい。あったかいなぁ。このあったかさにずっと身を投じていたい。嬉しい。幸せ。


「なぁ、てん」
『ん?』
「大好き」
『私も』


(進路希望はワイの嫁で決定!そんでワイはてんのお婿さんや!)
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