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いやいやいやいや、まさかそんな誘惑したとかそんなんじゃないんですよ?
ただ、ホントにただたまたま隣に座っただけなんです。
ほら、学校も違うし……って、この制服は、あの有名な氷帝学園じゃないか!
いや、そんな、お金目当てとかでも違いますし!
本当の本当に、単に隣に座っただけなんです信じて下さい。
そしてこの状況をどうにかしてください!
この眼鏡のイケメンさん、私の肩に頭置いて寝てらっしゃるんです!


「ん……」


ひいい……!耳元で……耳元で寝言をいわないでください!無駄に吐息がエロいですやめて。
最初は彼も本を読んでましたし、私もただぼけーっとしてただけなんですけども。
急に肩に重みを感じると思えば、いつの間にか寝てるではないですか。
こんな状況に陥るなんて生まれてこの方初めてだし、あまりにも気持ちよさそうに寝てるものだから、起こしていいのかもわからない。
とかなんとか思ってるうちに、自分が降りるはずだった駅も過ぎてしまった。
これは本当にどうしたらいいんだろう。
ちらりと凭れかかる彼を見ると、伏せられた目の睫毛が長い。
そして、触れている髪の毛もふわふわとしている。
そしてそして、無駄にイケメン……。
急に恥ずかしくなって、思わず顔が熱くなる。


『あーあ……ホントどうしたらいいんだろう』


眺める窓から次々と駅が消えていった。


***


「ん、んー……ん?え?は?……ここ、どこや」
『あ、気付かれましたか?』
「え、あ、はぁ」
『もう、終点ですよ』
「終点!?え、俺寝過してしもたんかいな!」
『ごめんなさい』
「なんで謝るんや?」
『いや、あまりにも気持ちよさそうに寝てるもんだから起こせなくて……』
「……起こしてくれてもかまわんかったのに」
『そ、そうですよね!すみません』


少し機嫌悪げに言われてしまった。
やっぱり途中で起こした方がよかったのかもしれない。
なんだかんだいって、終点まできてしまったし。
申し訳ない気持ちで、ふと彼を見ると、なぜか彼は私を凝視していた。
そしてそのまま近づいて、私に手を伸ばしてきた。


「自分、襟まがっとるで」
『えっ、あっ』


何かされる、と思って身構えれば、彼はまがっていた襟を直してくれたみたいだ。
ほっと息を吐くと、ありがとうございます、と言った。


『さっき凭れかかったので曲がっちゃったみたいですね』
「あー……やっぱりせやったんか」
『へっ』
「すまんなぁ……俺のせいやろ?」
『えっ、そんな!』
「俺が凭れかかっとったんやろ?」
『あー……実は』
「そっかーそりゃ俺が悪いわぁ、堪忍な」
『そんな!私も悪いですし……』
「悪くないで、えーっと、何さん?」
『あ、私、梓月てんっていいます』
「俺、忍足侑士言います。ほんなら梓月さん、梓月さんは駅どこ?」
『あー、こっから10個くらい前です』
「10!?そらあかんわ……そこまで送ってく」
『悪いですよ!』
「わるないわるない、女の子一人置いてけへんわ」
『でも、忍足さんは?』
「大丈夫、俺も梓月さんと変わらんとこの駅や」
『あ、そうなんですか!それなら、途中まで一緒に行きましょうか』


そう言って、私と忍足さんは一緒に上りの電車に乗りこんだ。
電車の中では、これも何かの縁やで、と言われ、メールアドレス云々交換してもらった。
だが、さっき変わらないくらいの駅といいつつ、本当は終点近くの駅だったと知ったのは、これからもう少し経った後で、勢いよく謝ったのもまた別の話である。
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