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「僕は別に怒ってるわけじゃないんだけどな」
いやいやいやいや嘘をおっしゃい。
にこやかな笑顔で、私のほっぺたをつねる不二先輩は実に楽しそうにしている。これはやばい。確実になんか私やらかしてる。不二先輩は怒ると10倍以上の笑みを私に向けてくる。これはホントやばいやつだ。過去の私何したよまじで。
「ねぇ、なんでそんなに怖がるの?僕怒ってないって言わなかったかな?」
『い、いいまふぃた!』
「いいまふぃただって!あははかわいい!」
絶対かわいいとか思ってないし。寧ろぶさいく果てろぐらい思ってるよこの人。やばいガチ怖い。怒ってないとか絶対嘘だもん。本能が告げてるもん。
『わたひなんかひまふぃた?』
「自覚ないの?」
確実にさっきまでの温度より下がった声で言った不二先輩。叫びたくても叫べないし、助けを求めることもできない。
「ったく、なんでこんなのが僕の彼女なんだろう」
『わたひいふはらせんひゃいのかのひょになっはんでふは!?』
「ん?ごめん聞き取れないんだけど」
『……なんふぇもないれふ』
私がいつから先輩の彼女になったんだっていうんだ。初耳だ初耳。どこでそんな勘違いしたのこの人。頭大丈夫かなあああいたいいたいいたいっ!
「今失礼なこと考えてたでしょ」
『かんはへてまふぇん!かんはへてまふぇん!』
もうホント信じらんない!私仮にも女の子で先輩の彼女らしいのにこんなにほっぺたつねられて!ホントなんなの私が何したっていうの!?
きっと不二先輩を睨み付ければ、一瞬呆れたような顔をして私の頬から手を離した。やった。解放された。やっとちゃんと喋れる。
「ねぇ」
『何ですか……』
「なんで僕以外と話すときはあんなに笑顔で楽しそうなのに、僕の時だけはそんな嫌そうな顔をするの?」
『それは……』
先輩が怖いからとも言えず口ごもっていると、先輩は私の頬に再び触れた。でも今度は、優しく何度も撫でるだけ。なんなんだ、飴と鞭の飴か。
「僕好きな子には意地悪しちゃうみたいなんだ」
『へぇ』
「……今言った意味わかってる?」
ああもう、なんて頭をかかえる不二先輩を見るのは初めてかもしれない。珍しいものを見れたもんだなぁ、とかぼけーっと考えていた時に不二先輩がいきなり耳元に口を寄せた。
「僕は君のことが好きって告白したつもりだったんだけど?」
告白?不二先輩が私に?そんなまさか。
いつもの冗談かと思って不二先輩の顔を見れば、笑顔なんてどこにもなくてすごく真剣な顔だった。今日は珍しいものづくしだ。槍がふってくるかもなぁ。
「考え事?余裕、あるんだね」
『へ』
「僕にはないよ」
すきあり、なんて笑いながら言った不二先輩にいつの間にか唇を奪われていた。そんなまさか。