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『ねぇ、千歳先輩』
「んー?」
『何かします?トランプとか……ありますけど』
「んー」


私の部屋に突然来た千歳先輩はさっきからこの調子で、ベッドの上に座って、私の背中にもたれかかっている。
そもそもここに何をしに来たのかもわからない。
日曜日の今日は家でゆっくりしようと自分の部屋で本を読んでいるところにインターホンが鳴って、玄関に出てみると、そこには千歳先輩が立っていたのだ。
入れて、とだけ行って、私をおいて勝手に部屋に入って、今にいたるのである。
この様子だと、遊びに来たわけじゃないみたいだ。


『千歳先輩ー?』
「なんね」
『こっちの台詞ですよ……何か、あったんですか?』
「別に何もないばい」
『うそ』
「うそじゃなかよ」
『うそですよ、わかります』
「何も知らんくせに」


千歳先輩はそのまま黙ってしまった。
ただ、背中のぬくもりだけは消えない。
再び戻ってきた沈黙は、先程より居心地が悪かった。
確かに、私は何も知らない。
でも、あんなにつらそうな、悲しそうな顔をした千歳先輩を見てしまったら、何かあったと思う他ない。
それにしても、あんな顔の千歳先輩、初めて見たな。
思わずうらやましいと思ってしまった。
いつも明るくて、優しい先輩にあんな顔をさせるなんて、何処の誰なんだろう。


「てん」
『なんですか、先輩』
「少しだけ……」
『はい』
「少しだけでいいばい、てんの時間が欲しい」
『はい』


惚れた弱みというかなんなのか。
先輩もきっと気づいている。
気づいてて、こうやって断れないことも知ってて、私のところに来るんだ。
拒絶せずに、全てを受け入れてしまう私のところに。
本当に、本当にこの人は、


『ずるい人』


息を吐くようにつぶやいた言葉は、千歳先輩の耳に届いてるか否か私には分からないけれど。
どうせなら聞こえてしまえばいいと、私は思った。
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