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好きなもの。
教室を染める夕焼け、金木犀の微かな香り、机に残された落書き、そして、柳生の眼鏡。
「なんで最後に私の眼鏡なんですか」
『ちょっと詩人っぽかったでしょう』
「まぁ……眼鏡は意味がわかりませんが」
『そう?』
だって、私その眼鏡好きよ?あなたにとっても似合っているし。そう言えば柳生の頬に少し赤みがさした。照れてる証拠。
「でも、詩人ならもっと風流なものを最後に置くべきですよ」
『まぁ……風流かって言われたらそうじゃないかもしれない』
「でしょう?」
『でも、私はただの眼鏡じゃなくて柳生の眼鏡って言ったのよ?』
柳生は少しだけ首を傾げた。言ってる意味がわからない、そういう顔だ。そうでしょうね、あなたにはきっとわからない。第三者である私だからこそわかるんですもの。試合をするあなたの眼鏡ごしの視線。あなたが眼鏡ごしに見てきた様々な苦難、挫折、幸福。あなたのすべてをうつしてきたといっても過言ではないのだ。
『ねぇ、柳生』
私はね、その眼鏡を通してどんな風に見られているのかずっと知りたかったの。
柳生のすべてをうつしたあなたの眼鏡には果たして私が本当にうつっているのか、ずっとずっと知りたかったの。
『心から愛しているわ』
いったいどんな言葉をかければ、あなたの眼鏡に私をうつしてくれるのかしら?