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あーまじ信じらんない。
余裕ぶっこいて改札通ったのに目の前で電車の扉は閉まって、駆け込むかいもなく虚しくその場に崩れることとなってしまった。
うわぁ、なんであそこで走らなかったかな。今日の運転手さんはちょっと優しくなかった。運が悪い。さっき見てきた朝の星占い最下位だったしな、だってほら次の電車30分後とか書いてある。遅刻決定だわ。いや別に遅刻したことは幾度となくあるけど、このパターンは初めてだよ。
私はため息を吐いて、待合室のドアを開けた。ここで読書でもしとけば時間つぶせるでしょ。そう思って、椅子に座ろうとしてぴたりととまった。


「よぉ、お前さんも遅刻か」


今まさに座ろうと思った席にすっと横から座ってきたのは、同じクラスの仁王だった。
うわぁ、ホントに最悪。私こいつのこと大っきらい。
今年初めて同じクラスになったのはいいんだけれど、集団行動の場でもふらふらマイペースに動くし、目を輝かせたと思ったらクラスメイトにちょっかいかけたり。私も仁王の悪戯の被害にあった一人であるし、さらに最近は特に私に悪戯が降りかかることが多い。何これいじめのターゲット?ってぐあいにあっちこっち追いかけまわされる。


「ほら、ここ座りんしゃい。特等席じゃ」


ぽんぽんと自分の膝を叩いてる仁王。常識的に考えてそんなところに座る一般女子がいるか。お前の彼女になる人ぐらいだわ。
仁王を完全無視して、私は仁王から離れたはじっこの席に腰を下ろす。鞄から小説を取り出して読み始めれば、突き刺さるような視線。
もうなんなんだよ、私は読書に集中したいのに。これじゃできないじゃないか。
だんだんイライラしてきたので何か一言言ってやろうと顔をあげれば、近くに仁王の顔があってびっくりした。ぜんっぜん気づかなかった。いつのまにか私の隣に座っていて、固まった私の髪の毛をすくって三つ編みをし始めた。


『何……してんの』
「やっとしゃべってくれたのう」
『……』
「まただんまりか」


息を大きく吐いた仁王は私の髪をくいっと軽くひっぱった。
痛いし。邪魔だし。イライラだけが加速して、私は仁王の手を払いのけた。少し驚いた顔をした仁王は、ちょっとだけ寂しそうに笑って、私のカーデのすそをぎゅっと握った。
何こいつ。何考えてるのかまったくわかんない。
読書を再開した私にかまいもせず、仁王はさっきよりも体を密着させてきて、さらに私のネクタイをするりとといてきた。


『ちょっと何すんの』
「わからん?」


口の端をあげた仁王は私の首筋を唇でそっとなぞる。
え、もう、なんなのこの人。
持っていた本が手元から落ちて、私は思いっきり仁王の体を押すけれどびくともしない。耳元で聞こえる息遣いだとか、直に触れる体温だとか、思わず反応しちゃう私の体だとか。いい加減私の中をかき乱すのはやめてほしい。


「かわいい」


散々悪戯されてきて、きっとこれだってこいつにとってはいつもと変わらない悪戯でしかないのかもしれない。そうだったとしてもたちが悪すぎる。
リップ音とともに顔を上げた仁王はにっと笑って、私の首筋を指でなぞった。


「お前さんは俺の」
『ふざけんな』
「俺がいつふざけたかのう……いつだって本気じゃ」


私の瞳を覗き込んだ仁王は私をそっと抱き寄せた。
どうしてこうなったのか。目をつけられたら最後ってことなのか。
私の不運が始まったのは何も最下位の今日からじゃなかったって話で。



惚れられたもん負け



(一生逃れられないというその瞳に捕らえられてしまった不運)
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