▼ ▼ ▼


『何』
「……」
『ねぇ、なんなのちょうたろう!』
「へっ」


びくりと肩を震わせたちょうたろうは私を見て少しびっくりした顔をした。いや、驚きたいのはこっちだからね。
昼休み、ベンチに座って雑誌読んでたら、いつの間にか隣にちょうたろうがいて、さらにそこでお昼ご飯を食べ始め、食べ終わったと思ったらどこに行くでもなくその場に座ったままで、さらにさらに私の顔と雑誌を何度も何度も見比べられたら、気にするしかないじゃない。


「てん先輩、俺のこと気づいてくれてたんですか!嬉しいです!」
『いや、隣でソワソワされてたら嫌でも気が付くでしょ……』
「あ、先輩!」
『聞けよ!』
「さっきから何読んでるんですか?あ、お昼ご飯もう食べちゃいました?俺サンドウィッチ作って来たんですけど!」
『ん、ん?ちょっと待って情報量多いよ』


はいこれ、とにこやかな笑顔で渡されたのはおいしそうなサンドウィッチの入ったかわいらしいお弁当箱。先輩のために作って来たんですよ、なんて言われたら、もしお昼ご飯食べていたとしても貰っておかないと申し訳なさすぎる。きっとそんなところも天然でわかって言ってるんだろうな。確信犯め。おいしいからいいんだけどね。
もごもごと口を動かしながら膝の上においた雑誌をめくる。かわいらしい女の子が色とりどりの洋服を着て、にっこりと私にむかって微笑む。あーあ、私もこのくらいかわいかったらなぁ。いろんな服着て、いろんなところに出かけて、遊んで……。でも無理。見た目も性格もこのとおりぶっさいく。そんな私が着飾ったところでまったく実をもたないもんね。
やめたやめた。こんなページ開いてるから暗い気持ちになってくるんだ。さっさとしらたまぜんざいさんのコラムでも読もう。そう思った時、ページをめくる手をぴたりと止められた。ちょうたろうの手によって。
ちょうたろうの手ってこんなにでかかったっけ……ってそうじゃなくって。


『何、ちょうたろう』
「ん?いや、この服先輩に似合うなぁって」
『似合わないよ』
「似合いますよ!」
『私かわいくないし』
「先輩」


握られた手に少しだけ力をこめられて、思わずちょうたろうを見上げたら、目の前にちょうたろうの顔があって、あまりにも近すぎてびっくりした。しかもいつにもまして真剣な顔をして見つめられている。


「先輩はもう少し自分の魅力に気づくべきです」
『魅力もなにも……』
「今だってこのままさらっちゃって抱き着いてキスしたいくらいなんですから」
『なっ、はっ!?』
「あ、口が滑っちゃった」
『口が滑ったって……』
「ね、だから先輩、俺と今度デートしましょう!そして、もっともっとかわいくなりましょう!」
『ど、どうしてそうなる……』
「先輩の魅力を一番に知ってるのは俺なんですから」


ね?なんて顔を覗きこまれながら、笑顔で言われたらもう断れるわけなんてないじゃない。
こういうのに弱いってきっとわかってやってる。ホント絶対確信犯だし。
デートね、デート。別にしてやってもいいよ。でもどうせまたこうやってちょうたろうに振り回されっぱなしになるんでしょうね。
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