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「神隠し……」


トイレに行ってたのかわかんないけど、謙也と白石が教室に戻ってきた。
だが、なんだか様子がおかしい。
心ここにあらずといった感じだ。
そしてあげくの果てには、冒頭の意味のわからない言葉だ。
フラフラと私の席まで来た二人は、難しい顔で私を見下ろした。


「てん、お前今夜神隠しにあうで」
『はぁ?大丈夫、謙也』
「何の心配しとんねんコラ」
『頭にきまってるだろ』
「ぶん殴るで」
『で、私が何?神隠し?』
「そうや……お前今夜覚悟しとった方がええで」
『お、おう?白石まで……いったい何なの……』
「俺ら聞いてしまったんや」
「せや、聞いてしまったねん」
『何をだよ』
「千歳が今夜お前んち行くって」
『……はぁ?』


いやいや、意味がわからない。
千歳くんって、あの、転校生でテニス部の、あのでっかな子だ。
それが何故今夜私のところに来るっていうの。
そして、何故それが神隠しにつながるっていうの。意味がわからん。


「俺はそんな不純異性行為許さへん!」
「俺らすらてんん家行ったことないねんで!」
「せや!俺達の目の黒いうちは絶対にてんはやらん!」
『おい、お前らは私の父か』
「せやかて!」
『まだわかんないじゃない、何か用事があるだけなのかもだし』
「梓月てんさんおる?」


急に聞こえた声にドア方向を見ると、頭をぶつけそうになっている、例の千歳くんがいた。
私達に気付いたのかこちらに向かって手を振っている。


「おったおった!俺、梓月さんに会いに来たとよ」
『何か用事でも?』
「そうったい!今日、梓月さん家に迎えに行くけん、まっとってほしか」
『それは全然かまわないけど』
「よかった!俺、ずっと梓月さんのこと好きやったったい」
『えーっと……え?』
「やけん、俺今夜梓月迎えに行くばい、そして、俺と結婚してほしか」


両手をぎゅっと握られて、笑顔で言われた言葉に思わずかたまる。
え、この人何て言ったの。
迎えに来る?結婚?
じゃあ、また今夜、とかなんとかいって、千歳くんは爽やかな笑顔で去って行った。


『……』
「てん?てん!?」
「大丈夫かてん!気をしっかり持てや!」
「ぎゃあああああああああああ!!!てんが倒れたあああああああ!!!!!」
「おい!誰か千歳を埋めてこい!!!!!!!」


中学生だから結婚なんてものは当然できるはずもなく、千歳くんの神隠し宣言は未実行に終わったけれども、
まぁ、これが今となっては懐かしい思い出となり、さらに馴れ初めになるなんてことは誰もが予想しなかったわけで。


結婚前夜


「くそー!今でも許したわけやないからなー!幸せになれよー!」
「うっかりしとると、いつでも奪ってやるからな!」
「そんな心配はいらんばい!俺はてんを一生愛し続けるけんね!」
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