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家に帰りついて、さっさと宿題をしてしまおうそう思って自分の机についたところで、携帯がふるえ出した。ディスプレイを覗けばそこにはサエこと佐伯虎次郎の文字。さっきまで一緒に授業を受けていたクラスメイトの名前だ。どうしたんだろうこんな時間に。この時間ならちょうど部活が終わったぐらいだ。
着信音が鳴り終わらないうちに電話に出れば、サエの声で「学校で待ってる」の一言。ぷつりと切られてしまった電話を見つめ暫く呆然としていたけれど、我に返った私は何も持たずに階段を駆け下りてそのまま家を出た。
お母さんに一言言っていけばよかったかな、とか、晩御飯とかどうしようとかも頭のどこかで考えていたけれど、走っているうちに酸素が足りなくなって考えるのをやめた。


「てん!」


学校が見えてきて走るのをやめて歩いていると、校門の前にサエが立っていた。ジャージ姿のところを見ると、きっと部活の後そのまま待っていたんだろう。手をふって、私のところまで来て、背中をさすってくれた。


『……どうしたの?』
「会いたくなった」


こんな理由じゃだめ?なんて眉を下げて言われるもんだから私は何も言えない。それに私も会いたかったし。だから走ってきたわけだし。そっと握られた手を握り返せば、サエは嬉しそうに笑ってくれた。


「じゃあ、行こう」


そう言われて踏み込んだ先は学校で、思わずサエの顔を見た。
学校?しかも夜の?ちょっと待ってよサエ。この前学校の七不思議の話を亮にされたばっかじゃない。そう必死になって訴えれば、幽霊なんて出ないよ、なんて笑いながら言われるし、それにもし出たら俺がてんを守るよ、なんて言われるし。呆れればいいのか、照れればいいのか、なんだかわかんなくなってきた。
いっつもなんだかんだ言いながら、こんな感じでサエのペースになっているんだから、もうどうしようもない。心を決めて校舎内に忍び込めば当然真っ暗で、自分たちの足音が変に響いて気持ち悪い。どこからか水滴が落ちる音がした気がしたり、窓の外で何かが動いている気がしたり。怖くて思わずぎゅっとサエのジャージを掴めば、笑ってその手に自分の手を添えてくれた。
階段をどんどん上ってついた先は、この前亮がしていた七不思議の一つにある最上階のあかずの扉。小さい悲鳴を出した私を見て、少しだけいたずらな笑みを向けたサエは、目の前に鍵をちらつかせた。


『そのカギは?』
「まぁ、見てて」


ゆっくりとそのカギを扉の鍵穴にさしてまわすと、カギのあく音が聞こえた。私とサエは顔を見合わせて、ドアノブをまわすと、少し軋んだ音をたてて扉はあいた。それと同時に私たちの目に入ってきたのは、星いっぱいの夜空。


『すごい!こんな星いっぱいの空なんて見たことない!』
「こんなにすごいとは思わなかったよ」
『ホント綺麗!』
「よかった、喜んでくれて」


でもどうしてあかずの扉のカギをサエが持っていたんだろう?そう言うと、実は肝試しをしていたらしい亮が扉の前でこのカギを見つけて、屋上につながる扉だとその時知っていながら面白がって私を脅かしたらしい。


『なぁんだ……七不思議でもなんでもないじゃない』
「まぁ、その時の怖がりようとてもかわいかったけどね」
『なっ』
「でもそれ以上に、今日てんと一緒にここに来れたことが嬉しいよ」
『サエ……』
「ねぇ、てん」
『ん?』
「大好きだよ」
『……私も好き』
「ね、もう一度言って?」
『やだ』
「えー?」


そう言って、サエは私を引き寄せた。
あったかいなぁ、サエは。本当に。本当に大好き。


『大好きだよばーか』
「ばかって、ひどいなぁ」
『誕生日おめでと』
「……!」


目を見開いたサエは私の顔を覗き込んだ。
やめてくれないかな。だって今の私の顔絶対真っ赤。
ふっと優しく笑ったサエが、耳元で、最高のプレゼントだよ、なんて呟くから、ますますほっぺたが熱くなってきたので、照れ隠しにサエの唇を奪ってやりました。
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