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『幸村くん』
「あ、梓月、おはよう」


朝早く、教室一番乗りかと思ってドアを開けると、そこにはすでに、幸村くんがいた。
おおっとこれは想定外だ。
今日もてっきりテニス部の朝練かと思っていたのに。
やけににこやかな幸村くんは、自分の席でお気に入りの詩集を読んでいるみたいだ。


『やけに早いんだね、朝練は?』
「今日は休みにしたんだ、たまにはいいだろう?」
『毎日大変そうだもんね』
「そうでもないんだけどね」


えっ、そうでもないの?
いつも丸井くんとかジャッカルくんとか仁王くんとか柳生くんとか真田くんや柳くんまでボロボロになって帰ってくるんだけど。
そうでもない練習でどうしてボロボロになるんだろう、謎すぎる。


「それはそうと、梓月はどうしたんだ?いつもは遅刻ギリギリじゃないか」
『うっ、それは……』
「何?」
『いや、別に……気まぐれ?』
「なんで疑問形なんだい」


相変わらずおかしな子、なんて幸村くんは笑った。
相変わらずって、常々思ってたの、幸村くん……ひどくないか幸村君……。
それはそれとして、困ったことになった。
実は今日は、幸村くんの誕生日なのだ。
こっそり準備していた、誕生日プレゼントを、幸村くんが朝練に行ってる間に、机の中にでも忍ばせておこうなんて思っていたのに。
これじゃあ絶対に無理だ。
なんせ、死角がない幸村くんだ。
私は聞こえないように小さくため息をついた。


「ねぇ、梓月、ところでさ」
『ん?』
「その、鞄に入ってるプレゼント俺にくれないの?」
『……は?』
「だからプレゼント」
『ん?』
「誕生日プレゼント、俺にくれないの?」
『え、あ、うん、えっ、ちょっと待って?』
「やだ」
『やだじゃなくって、なんで、私がプレゼント持ってること知ってるの?』


頭の中はハテナマーク、鞄から何かのぞいてるのが見えるのかと思ったけど、しっかりとしまって、何も見えない。
じゃあ、何故、私がプレゼントを持っていることを彼が知っているのか。


「俺が梓月のこと何も知らないとでも思った?」
『えっ』
「俺に限って、そんなことあるわけがないだろう」


不敵な笑みを浮かべた幸村くんは、一歩、また一歩と私との距離を埋める。
鞄を持った方の手首を、見た目で想像するよりはるかに強い力で掴まれた。


「さぁ、俺に何か言うことは?」
『は、はっぴーばーすでい!!!!!』


そういうと、よくできましたなんて頭をなでてくるもんだから、真っ赤になった顔で幸村くんの前から思わず逃げ出してしまった。
そして、プレゼントを渡しそびれたことを思い出すと同時に、またあとでプレゼントを渡さなきゃならないと思うと、心臓がいくつあっても足りない。
私は逃げながら、また小さく小さくため息をついた。



逆ドッキリ



「いやぁ、今日の梓月も見ものだったね」
「そろそろ勘弁してやれ、幸村」


12.03.05
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