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『ごめんね』


そう俺を目の前にして言った梓月は泣きながらケーキを頬張った。
あーあ、なんて顔だよ。不細工にもほどがあんだろぃ。
近くに置いてあったタルトを頬張って、大きなため息をつくと、梓月はびくりと肩を震わせた。うりゅっと再び目に大粒の涙がたまる。鼻声でごめんねごめんねと繰り返す梓月はフォークの動きだけは止めない。
ったく、食うか泣くかどっちかにしろぃ。
そう思いつつ俺もフォークの動きだけは止めなかった。まぁ、聞き取りづらい梓月の話を要約すると、超大好きー愛してるーな彼氏さんにふられたんだと。
へーへー失恋ですか。んで、講義中だった俺は、梓月に電話で呼び出されて、スイーツバイキングって言葉にひかれてついてきたわけだけど。バカみたいにお互い皿にスイーツを乗せてどかっと椅子に座ってもくもくと食べるっていう。しかも一人は号泣しながらとか。まわりから変な目で見られてるけどもうどうしようもないし、だからとりあえず食っとく。


『ブン太ぁ……』
「うるせー。だから言っただろぃ?あいつはやめとけーって」
『そんなこと、言われてもさぁ、まさか本当のことだとはさぁ、思わないじゃない』
「おいおい、かれこれ何年の付き合いだよ俺ら?俺まだお前に嘘をつくやつだと思われてんの?めちゃくちゃ不名誉なんだけど」
『だって……好きだったんだもん。好きになっちゃったんだもん』
「はいはい、で?これで何度目?」
『4度目』
「お前もこりねぇ奴だなぁ」


ごめん、なんてまた呟いて泣き出しそうになる梓月の涙腺に正直呆れた。いつまで出すつもりなんだよ涙。梓月の皿に乗っていた食べかけたケーキの上に涙が数滴落ちる。
あーあもうどうすんだよこれ。食べ物の上に涙なんて落とすなんてよ。
俺はポケットからハンカチを取り出して、梓月の顔に投げつけた。びっくりした顔の梓月を無視して、自分の皿と梓月の皿を取り換え、涙が落ちたケーキを口の中にほうりこんだ。


「しょっぱ」
『何してんの……』
「梓月の涙のせいでせっかくの甘くてうんめーケーキがだいなしだぜ」
『……』
「だから、さっさと笑え」
『え?』
「お前の愚痴でもなんでも聞いてやるよ。そんでさっさとふっきればいいじゃねぇか。あんな奴逆に私がふるつもりだったのよーぐらいの勢いで」
『ブン太……』
「な?だから、笑って、スイーツバイキング全種制覇しようぜ?」


ゆっくりと瞬きをした梓月は、俺のハンカチでぐしゃぐしゃと顔をふいた。顔をあげた梓月は、鼻も目も真っ赤だったけれど笑っていた。
顔ぐっちゃぐちゃできったねぇの。でも、まぁ、それでも泣き顔に比べたら全然そっちのがいいんじゃね?
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