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8月も終わって9月になった途端世間は秋色になっていく。
なんかさみしいな。私今年の夏何もしてないや。浴衣着たり、お祭りとか海に行ったり、花火をしたり、スイカ食べたり。夏らしいこと何一つ。受験生とはいえなんかすっごい心残りなんだけど。


『ね、聞いてる?』
「きいとるきいとる」
『絶対聞いてないわこいつ』


これ見よがしに思いっきりため息をついても横で熱心に携帯をいじっている。
まぁ、隣にいてくれてるだけましなのかもしれないけど、こいつは本当に私の彼氏なのかと時々疑いたくなる。
あーあ、なんかこのまま終わるなんてやだなぁ。少し涼しくなった風が吹く窓に近づこうと腰を浮かすと、腰に隣から手が伸びてきて阻止された。


『何』
「どこ行くん」
『別に』
「行かんで」
『はいはい』


さっきより密着して来て、財前の体温がつたわってくる。
いつもこのぐらい甘えてくれてもいいのにな。そしたら私だって素直になって、どこ連れってってくれだの、あれが欲しいだの、言えるのにね。
あーあ海行きたい海。横を見ればいつの間にか携帯を閉じていた財前が私の顔を見ていた。無表情すぎてめっちゃ怖いんですけど。


『何?私の顔になんかついてる?』
「行くで」
『えっ?行くってどこに!?もうこんな時間なのに!?』
「黙っとけ」


私の腕をつかんで財前は部屋を出た。
全然意味わからない。
けれど腕をつかんでいた手がそのまますべって私の手を財前が握って来たのでなんかもう頭が混乱してきた。なんだこれ。
最寄の駅まで早足で歩いた財前に息をきらしていると、あれ乗るで、と電車を指さした。
最終電車に飛び乗って二人並んで座ったけれど、財前はただ無表情で前を見続けている。私はその横顔をちらりと見ながら、黙っとけと言われたのもあって、何も言わず隣に座っていた。きっと何を言っても話してくれないだろうし。
それにしても我が彼氏ながらやっぱりかっこいいなぁ。浴衣とか着たらすっごく似合いそう。でも、夏終わっちゃったもんなぁ。
そんなことを思っていたら、急に財前が私に顔を向けてここで降りんで、と言ってきた。
あれ、ここは……。


『う、海!?』
「行きたかったんやろ?」
『うん、えっ、でも、今の最終電車……』
「気にせんでええやん」
『……』


ついた先は私が行きたい行きたいと財前にごねていた海で。潮の香りが懐かしい。あーもう、なんだろう。すっごくうれしすぎてやばい。今絶対にやけてる。
誰もいない浜辺に私と財前だけ。二人っきり。波の音が心地いい。
なんだか叫びたくなって、財前のばーか大好きだーって叫んでやれば、思いっきり頭をはたかれた。でもそんな財前の顔も真っ赤で、口元を手で押さえていた。


「こっち見んな」
『やだ』
「にやけんな」
『無理』
「っていうか、こんな時ぐらい光って呼んだらどうなんや」


服の裾をくいっとひっぱって、意地悪い顔で私を見てくる。ああもう名前で呼んでとかホントかわいいなぁ。


『……光』
「おん」
『ありがとう、大好き』
「俺も」
『うん』
「来年は思いっきり夏楽しませてやるわ、覚悟しとけや」
『おう!』


そう言って、私と財前は顔を見合わせて笑った。触れた小指をそっと絡ませて。


この夏最後の素敵な思い出。
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