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「俺実は梓月のことすっげー好きなんだぜ」
『あっそ』


昼休み、ごはんも食べ終わって読書していたら、目の前にどかっと丸井が座ってきてそんなことを吐いた。そこ、山田くんの席、丸井の席はあっち、って言えばわかってるしとか言って笑った。


「返事くんねぇの?」
『返事も何も冗談に返す言葉は残念ながら持ち合わせてない』
「……」
『何その沈黙』
「べっつにー」


さっきの上機嫌とはうってかわって、少しムスっとした表情になった丸井は、ぷっくりと風船ガムを膨らます。
あ、グリーンアップルの匂い。
そして、それと不釣り合いな甘ったるい香りが複雑に絡み合って、少し吐き気がした。
またどうせ、かわいい女の子と一緒にいたんだろう。
そうやってかわいい女の子と会ったあと必ず丸井は私のところにくる。情事後特有のあの艶っぽさを匂わせながら。それに何の意味があるのか知らないけれど、正直不愉快だ。気分が悪い。


『もう用がないんだったら自分の席戻れば?』
「つれねぇなぁ、別にいいだろぃ?梓月のそばにいたいだけだし」
『またそんな冗談。それで他の女の子を落とせたのかもしんないけど、私は無理だから』
「ふうん?それはそれで余計燃えるだけだし」
『勝手に燃えて灰になっちゃえ』
「それが梓月の望みなら別にいいぜ」
『……』


なんでここで黙るんだよ、冗談でしょ、って返せよ。そう言って丸井はなんだか息がつまったような顔をしながら笑った。
本気でしそうだと思ったなんて。
なんなのさっきの妙に真剣な顔。冗談だって、ずっとへらへら笑ってればいいのに。時折見せるそんな表情が、私をじわじわと追い詰める。自惚れてもいいんだって錯覚させられる。丸井のことだから確信犯かもしれないと思うと、なんだかいろんなものが滑稽に見えてきた。
所詮私も丸井の手の内で踊ってるだけにすぎないんだ、きっと。
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