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「……」
『……』
「おい、どうした」
はぁ、とため息を吐いた跡部は、小さく振り返って私を見下ろした。だけど私はそんな跡部と目をあわせない。珍しく困り果てたような跡部の声色が、耳の中に重たく響く。背中にぴったりくっついて、腰に手をまわして。跡部の温度がじかに私に伝わる。
「なんで後ろからなんだ、アーン?前から来い、抱きしめてやる」
『いやだ、跡部きもい』
「てめぇ誰にもの言ってやがる」
上等だ、と言って喉の奥で笑った跡部は私の頭をゆっくり撫でる。それがとっても心地よくって私は目を細めた。なんだか猫になった気分だ。
「なぁ梓月」
『ん』
「つらかったら言えよ」
『……ん』
「別に俺じゃなくてもいい」
『ん』
やっぱりこの人には隠せないなぁ。
跡部の言葉が体中を巡って、すとんと胸におちる。なにもかも見てるんだもん。こういう人だから、誰もが彼を慕うんだ。そして甘えちゃうんだ。彼にとってなんでもない私が本当にこんな風に甘えてていいのかなんて、それは絶対よくないんだろうけど。この心地よさにどんどん溺れて、ついに抜け出せなくなるまで、もう時間がなさそう。
「しばらくこのままでいろ」
そしてこんな一言一言に期待してしまうんだ。