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「おい、白石、白石!」
「なんやねん謙也うるさい」


さっきから小声で俺を呼ぶ謙也を、うっとうしげに見上げると、なんだか焦った顔で俺にすがってきた。
またこいつなんかやらかしたんちゃうか、ヘタれやし。
とか思ってると、誰がヘタれや言うてごっつ怒られた。
なんでお前ナチュラルに人の心読めるねん。


「あれや!さっきからあの女、お前のことめっちゃ見とるで」
「ん?あーまぁ、そりゃ俺に見とれるんは普通やろ」
「いや、ちゃうって!そんなんやないって!」
「じゃあなんやねん」
「めっちゃ怖いねん……!俺を通り抜けてお前を見とるねん!」
「は、はぁ?」
「しかもごっつ怖い顔でお前睨みつけとんねん!白石お前何かしたか!?」
「何かって……何かしたやろか、俺」


うんうん唸って考えてみたがまったくもって心あたりがない。
ちゅーか、俺が睨まれとるのになんでお前がおろおろしとんねん。
だからヘタれなんて言われるんや。


「お前ちょっと謝ってきいや」
「はっ!?思いもつかんのにか!?」
「せやけど、絶対なんかあるで……もう俺胃が痛くてしゃーないっちゅー話や」
「せやけどなぁ……ほんま何も思いつかんで……」
「さっさといってこいよ白石」


謙也に背中を押され、先程から俺を睨めつけてるっちゅー女の子の前に立つ。
なんや、かわいい子やないか。
っていうかぶっちゃけ好みや。
俺がいきなり目の前に立ったことで驚いたのか、びくりと肩を震わせたが、それでもなお俺を見上げて睨んでいる。


「えーと、あの、さっきからなんですか?」
『えっ』
「えっ」
『いや、あの、えっと、なんですか?』
「さっきから睨んどるんで……俺なんやしましたかね?」
『え、まさかそんな』
「ええっ」
『っていうか、私睨んでました!?』
「おい、白石なんやって?」
「謙也か」
『あ、こんにちは』
「え、あ、はぁ、こんにちは」


あれれ、なんや会話がおかしいで。
俺らは睨んどると思ってたけど、彼女は睨んでるつもりもなく……え、じゃあなんなん?


『ごめんなさい、私今日コンタクト落としちゃって、今あんまり見えてないんです』
「あ、ああ!それで!」
「え、何?」
『友達に用事あって探してたんですけど、見えないから目を細めてたんです』
「なるほどなー」
「だから何!?何がなんなん!?」
「謙也うるさい」
「ええっ」


なるほど、だから睨んでるように見えたのか。
たまたま俺らの方を見ていた時に謙也が気づいて、ずっと俺を睨んでるように見えてもうたっていう、だいたいそんなところやろ。
つまり、謙也のはやとちりっちゅーことやな。


「ごめんなぁ、俺ら勘違いしてもうて……えーっと」
『あ、4組の梓月てんです』
「梓月さん、覚えとくわ!今回のお詫びっちゅーか……まぁ、なんや困ったことあったら力になるで」
『え、ありがとう……!』
「あ、探しとる友達は?」
『いないみたい』
「そっか」
『じゃあ、私自分のクラス戻るね』
「あんま見えんのやろ?大丈夫?」
『大丈夫!』
「じゃあ」
『いろいろありがとう、白石くん』


そう笑顔で言って彼女は自分のクラスへ戻って行った。
なんや、笑うともっとかわええんやな。
あかん、もうなんだか彼女の笑顔が頭からこびついて離れへん。
もっと彼女のこと知りたい。
もっと近づきたい。
そんなことを思っとると、顔がぼっと熱くなった。


「なぁ、謙也」
「なんやねんお前、乙女の顔しとるで」
「俺、梓月さんに名前覚えられとったな」
「ああ、せやな。そりゃお前は有名やし」
「めっちゃ嬉しい」
「えっ」


恋だの愛だの全然俺にはわからへんかったけど。
今やっと分かった気ぃするわ。


「これが……これが恋なんやな!んん〜絶頂!」
「なんやねん、気持ち悪いで白石」

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