2第二次カレーまん事件簿
あの朝、柳先輩に遭遇して以来、私はあの場所に近づけなくなってしまった。
絶好のいい場所だったのに。
私はカレーまんを頬張りながら、いつもの非常口から、そしてテニスコートからだいぶ離れた海友会館の入口階段に腰をおろした。前の場所とまでは言えないが、朝ならここも人通りは少ない。ましてや平均的登校時間より早めに来ているから、きっと誰もいないだろうとふんだからだ。
なのにだ。
「ほう、今日はカレーまんか。朝からよく刺激の強いものを食べれるものだな」
何故目の前に柳先輩がいらっしゃるのでしょうか。
思わず食べかけのカレーマンを落としそうになって、柳先輩が地面すれすれのところで取りあげてくれなかったら、今頃私の朝ごはんはパァになっているところだった。
「以前一応注意したのだが……まぁ、すぐには改めないという確率は出ていた」
『か、確率?』
「そして、白瀬がこれまで使っていた場所から移動している確率も100%だったからな」
そこまで言うと、手に持ったノートらしきものをちらりと見て、寸分の違いも無しと言わんばかりに自慢げに笑ってみせた。また新しくデータも増えた、と嬉々としてノートに書きつけた柳先輩は、私の隣に腰をおろした。
『あの』
「なんだ?」
『今日は朝練は』
「今日は残念ながら休みになったんだ」
『そうですか……』
で、何故、ここに居座るんですか。
朝練がなくなって、暇になった柳先輩は、気まぐれに見つけた私を観察しようというつもりなのだろうか。
そんなおもしろみもないことを……。
『あの』
「どうした」
『どうして私の名前』
「さて、そろそろ教室に行かないといけないな」
『え、あの、』
「さぁ、白瀬も行くぞ」
食べかけのカレーまんを頬張りながら、さしのばされた手を取れば、少しだけ眉を顰められたが、なんだかんだ手を引かれて、いつの間にか自分の教室にいた。
こうして、また、何故先輩が私の名前を知っているのか分からないまま、朝のHRが始まってしまったのだった。