1第一次肉まん事件簿
朝の肉まんはうまい。
ちょっと早めに家を出て、近所のコンビニで肉まんを買い、さめきらないうちに自転車を全力疾走させて、学校に来て、人気の無い非常階段のところで一人で食べる。なんと至福なことだろうか。
朝晩冷え込み始めた今の季節には身に染みる暖かさだ。
ああ、幸せ。
「こんなところで何をしているんだ」
『ふぇっぐっむっ!?』
肉まんが喉につまって、息ができない。
誰だ私の肉まんタイムを奪ったのは。むせながら、にらみあげれば、その人は、テニス部の柳蓮二先輩だった。
声をかけてきたのは、あの有名な柳先輩である上に、まさかこの人が非常口に現れ、しかも、突然自分に声をかけるという事案に驚いて、大きな塊を喉にひっかけてしまった。柳先輩を涙目で見上げたら、少しため息をついて、私の背中を軽くたたいたあと、ゆっくり撫でてくれた。
「落ち着いたか」
『は、はい』
「確か、2年F組の白瀬ゆきだろう」
『え、何で知って』
「それはいいとして、何をしていたんだ」
『あ、朝ごはんを少々……』
「……」
『?』
急に黙った柳先輩が、私の口元に手をのばし、親指で何かをぬぐう。その一連の動きを呆然と眺めていた私に、柳先輩は、ついていたぞ、と言いながら笑った。
『あ……あっ、すいませんっ』
「おいしいか」
『あ、はい、おいしい、です』
「しかし、毎朝こうやって食べるのもいいが、朝飯は一日の活動において最も大事だからな。しっかり家で食べることも覚えておくといい」
『え、は、はいっ』
柳先輩はそのまま、歩き去ってしまった。
なんだったんだろう。今の。
まぁ、いいか。柳先輩の後ろ姿を見ながら、再び肉まんを頬張る。
ふうん。
朝練に向かう途中だったのかな。毎朝あってるって聞くし、大変だなぁ……いや……、いやいや、いやいやいや、ちょっと待てよ。なんで柳先輩、毎朝ここで私が肉まん食べてるの知っているんだ?そんな、いやだって、ここ、誰も通らな……え?
その日、混乱と共に、なごやかで至福で素敵な朝食ライフに終止符を打ったのは、まさかまさかの柳先輩だった。