1第七次ココア事件簿
昨日なんか、いつもの場所で食べていたら絶対お小言もらうと思って、登校しながらアメリカンドッグを頬張っていれば、何故か後ろから現れた先輩に見つかってしまった。
一周まわって恐怖すら感じるんですけど。
だから今日は何も言われないように、朝ごはんをしっかりと家で済ませてから登校し、自動販売機で買ったココアで勉学前の心を温めていたのだ。
はあ、五臓六腑に染み渡るってきっとこういうこと。
ふうふうと、息で冷ましながら、濃くて甘い香りを楽しむ。この瞬間が幸せだ。
「白瀬」
『うわっ!?あっつ、』
思考してる途中で声を掛けられて思わずびっくりして、手に持っていたココアの中身が指に触れた。あつさは一瞬で、少しだけじんじんとするそれを眺めていれば、焦ったような声で柳先輩が私の名前を呼んだ。
「申し訳ない、白瀬」
『あ、いえ、これくらい大丈夫ですよ』
「しかし……ああ、やはり火傷をしている」
『こんなのすぐに治っちゃいますよ』
「……」
黙り込んだと思えばあっという間に缶を奪われて、柳先輩の冷たい指先が火傷をした指に触れる。心配そうに見つめたのち、そのまま腕を引かれた。
え、なになに。どこいくの。
先輩は無言のまま歩き続け、近くにあった水飲み場まで来ると、蛇口の水で私の指を冷やし始める。その横顔を見れば、いつもの先輩と違って、どこか余裕がなさそうで、なんだか必死そうで、思わず口角が上がってしまった。
こんな先輩初めて見た気がする。
「……何故にやけているんだお前は」
『いえ?別に?』
「どうせ珍しい顔が見れたとでも思っているんだろう」
『まぁ、そうですね』
「白瀬に火傷をさせてしまったんだ、そういう顔ぐらいする」
『え?』
「赤みもひいた……これくらいで大丈夫だろう。念のため後で保健室に行ったほうがいい」
『あ、はい、わかりました……』
さっさと部活に戻っていってしまった先輩の後ろ姿をぼんやりと見る。
今なにか、さらっと、すごいこと言われた、気がするんだけど。
指の赤みはひいたのに、蛇口にうつる私の顔は叫びたくなるほど真っ赤だった。