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『つ、ついたあ!!』
黒くてぎゅうぎゅうずめになったバスが何台も連なって、会場前に止まった。
息苦しい車内から出ると、ひんやりとした空気が少しだけ気持ちよかったが、それもすぐに震えに変わった。
『海沿い寒い……』
「雨も降ってるし余計に寒いわねぇん!」
「小春俺があたためたるで」
再び始まったラブルス劇場を無視して、私は前を行く白石と謙也と健ちゃんの背を追った。
『ねぇ、そういえば千歳は?』
「あー……あとで来るんちゃうかな、多分」
『多分って』
「忘れとるかもわからへん」
『千歳らしいけど』
誰か迎えに行ったげなよ……まぁ、それじゃあ、千歳のためにならないか。
マフラーを口元まであげて、見上げれば大きなドームと、大勢の就活生の列が目に入った。
なんだか、いよいよだな。
緊張と、少し楽しみな気持ちとが混ざって、いいようのない高揚感がある。
ひきしまった顔に、しっかりと結んだ髪、初々しいようなスーツ姿、これが私のライバルたち。
きっと彼らにも同じように私たちも見られているんだろうな。
さっきまで談笑していた、謙也も白石も健ちゃんも、一氏も小春ちゃんも、ごくり、と唾を飲み込んだ。
そして、お互いもライバルなんだってことを、自覚させられた。
もうすぐ10時。出陣の時間がやってくる。
私たちはお互いに顔を見合わせて、同時に呟く。
勝ったもん勝ちや。
さぁ、入場開始の時が来た。