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この間師範と進路支援課に行って予約した面談の日がやってきた。
オサムちゃんだから緊張することもないけれど、いかんせん面談という場が苦手だ。
それに、まだ、履歴書のコピーにも手をつけていない。
なんだかんだ自分と向き合うことが億劫で、文章も考えるのが面倒で、そのまま放置していたら、面談の日がやってきてしまったのだった。
オサムちゃん怒るかなぁ。さっさと出さな俺の仕事終わらへんやんとか言われちゃいそう。
『オサムちゃ、オサムさんいますか?』
「おー待っとったで小邑。面談ブース使いますねー」
そう言って、オサムちゃんに面談ブースにつれてこられて、向き合う形で座る。
何故かその場にはこけしもいて、無駄に目があってしまう。
事前に提出していた進路希望票をまじまじと見たオサムちゃんはにやりと笑った。
「ふーん」
『な、なんですか』
「地元帰るんやな」
『帰りますけど?』
「みんな寂しがるでー?」
『そんなことないでしょ、あいつらのことだし』
「そないなことないと思うけどなー?」
なんだなんだ何が言いたい。にやにやと笑うオサムちゃんはいつも以上に気持ちが悪かった。
「おっと、時間無いんやった。モテモテやから次も面談あんねん」
『そうですか』
「なんかいつもより冷たーない?」
『別に』
「そうか?まぁ、ええわ。俺は小邑のことなーんも心配しとらんわ」
『え』
「小邑ならなんとかなるやろ!頑張って来い!」
にっと笑って親指突き出されても……私は不安でいっぱいなのに。
少しくらい心配してよ、オサムちゃん。
そんな不服そうな顔に気付いたのか、オサムちゃんはまた笑って私の肩をばしばし叩く。
痛い。
「小邑は喋れる方やし、いつも通り目を見て笑顔で話せればなーんも問題ない!資格もちゃんと取ってるし、部活もちゃんとまじめに取り組んどるみたいやし。大丈夫や」
『そんなもんですか?』
「なんや、心配か?」
『そりゃあ』
「せやったら、このこけしやるわ。小邑への御守りや」
『えー……』
「不満そうやな……オサムちゃんのこけしはすごいんやぞ?なんたって白石たち四天宝寺テニス部を全国大会に導いたんは、このこけしのおかげなんやで!」
無理矢理おしつけられて、私はしぶしぶとそれを受け取った。
すごいだろうが、全国大会に導いただろうがなんだろうが、こんなんどこに置くのよ……
謙也ん家に置いておこうかな。
「履歴書、書いたか」
げっとした顔がばれてしまったのか、呆れたようにオサムちゃんはため息を吐き出した。
「これきっかけに自分を見つめなさい」
『はい』
「きっと、お前のためになるはずや」
『……はい』
「お前のいーとこ、ぎょーさん見つかるで」
次があるから、と言って、オサムちゃんは私を送り出した。
オサムちゃんのくせに。
不安になっていた私の背中を、さりげなく押してくれた優しさが、なんだかとっても嬉しかった。