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『え、オサムちゃんが担当なの?』
授業が終わって、師範が就職支援課に用事があるとかで、私もついでに一緒に行ってみると、個人面談のお知らせが掲示板に張られてあった。
今現在予約可能らしい。
私と師範は、支援課内に入ると、そこにはこけし作りに熱中しているオサムちゃんがいた。
相変わらずこの人はこけしばっか作りよって。
師範が何度か声をかけて、ようやく私と師範に気付いたオサムちゃんは、こけしを持ったまま近づいてきた。こけしはいらない。
「よぉ、銀、それに小邑」
『オサムちゃんお久しぶり』
オサムちゃんは、四天宝寺中学の先生で白石達のテニス部の顧問だった人だ。
それが何故だか、この大学の就職支援課に転職することになり、もう2年だか3年だかになるらしい。
偶然仲良くなった謙也から、次々と四天出身のみんなを紹介され、最終的にはオサムちゃんまで紹介された私だが、お酒が飲めるようになった今では、オサムちゃんとも飲み仲間になっていた。
まぁでもオサムちゃんと飲みに行くとうっかり奢らされそうになるから要注意なんだけど。
『え、で、うちの学科オサムちゃんが担当なの?』
「おう」
『ホントに?』
「ホントやでー」
『大丈夫?』
「大丈夫大丈夫……って何心配してねん」
だって、ねぇ?と師範と顔を見合わせる。
師範の方がそこのところはよくわかってるだろうけど。
苦笑する師範に、オサムちゃんは唇を尖らせた。
「そう、今日はこれ出しに来たんです」
「おお!待っとったで!」
『何それ師範』
「エントリーシートや」
『エントリーシート……師範必要なくない?え、しかもなんで、オサムちゃんに!?』
「なんや小邑知らんかったんか」
『え、なにが?』
「まぁ、ちょうどええわ。ほれ」
大きめの紙を、オサムちゃんは適当に私の手の平にのせた。
売店でよく見かける学校オリジナルの履歴書。のコピー。え、何、これ。
「どうせ面談の予約しに来たんやろ?そのついでや。これ宿題にしとくわ」
『えっ』
「せいぜい自分と向き合うことやな」
『ええっ』
「ほな銀、これ預かっとくわ。添削したらまた呼ぶからな」
「すんまへん、ありがとうございます」
オサムちゃんはひらりと手をふって、自分の机に戻っていく。
師範の顔を見上げれば、神様のような微笑みを向けられ、肩に手をおかれた。
年内に頼むわーと言う言葉が追いうちをかけ、年末までの日数を虚しく数え、私が生きた約20年間に対する時間のあまりの少なさに、絶望するしかなかった。
エントリーシート:選考や面接の参考資料となる、企業提出用の書類。