忘れられない日

この写真わんにくれ。
そう言った凛が手に取った写真は、上代の写真だった。髪の長い上代の、笑顔で、でも少し寂しそうな写真。
この上代には見覚えがある。
わんにとって忘れられない日の上代だ。

上代が交換交流生としてやって来たこのクラスは、当然ながら、浮ついてる具合がはんぱじゃなかった。時期も微妙であったにも関わらず、勉強も運動もできる上代はすぐにクラスに打ち解けていた。
ただ、わんにとっては、どうでもいいことだった。
今はテニスが大事だし、テニスのことしか考えてなかったし。
だのに、同じクラスの凛は少し違ったようだった。明らかにイライラとしていて、わんに気にくわないとこぼしていた。
そういえば最近凛の調子がよくない。もしかしたらこの状況が余計、凛の神経を逆なでしていたのかもしれない。

そう思っていた時にあの事件が起こったのだ。
わんの目の前で拡げられる凛と上代の言い合い。
上代の手に握られたハサミと切られて風に舞い上がる長かった髪の毛。
そして、上代の涙。
いつも笑顔で、優しそうで、静かな上代が見せた、力強い瞳からこぼす涙。
動揺した。
忘れられないほどに。
ひきつけられた、上代の涙は、時々、わんの脳裏によぎる。


「この写真、わんも欲しい」


驚いた顔をした上代は、すぐに目を細めた。
もう二度と、あの顔は見たくない。


『えー!どうしたの二人とも!私もしかしてモテ期かな!?』

「ばっばーか!そんなわけないやっし!」

「そそそそーだ!そーだ!別にそういうわけじゃないやっし!」

『……ま、いいけどねー』


口を尖らせて、今度焼き増ししてくる、と言いながら上代は、その写真を見つめた。
すっごく昔のことみたい。
わんと凛はその言葉に、頷く。本当に昔のことみたいだ。ほんの3か月ほど前のことで、鮮烈に覚えている記憶なのに、仲良くなってからの時間がとても濃くて長く長く感じる。
お互いにそのことを思いだしているのか、とても静かな空気のまま、上代はアルバムを閉じた。
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