ビー玉の約束
『あれ、みんななにしてんの』
近所の小さな商店の前を通りかかったら、いつものメンバーがそろってラムネを飲んでいた。
なんか大きい男子がぞろぞろたむろしているとちょっと怖いな、なんて思いつつ声をかけたら、こちらを振り返った平古場が、あからさまに嫌そうな顔をする。
「げ、上代」
『ここであったが100年目、平古場覚悟』
「だーから、時代劇の見すぎやっし!」
大袈裟にのけ反る平古場の横で、ラムネ瓶の中のビー玉をころころ転がしながら、ゆうじろうは私が持っていた袋を指さした。
「上代、それ何」
『お母さんに頼まれてスパム買ってきた』
「あースパム、そういえば向こうのスーパーが安いって言ってたやし」
「スパム!?今夜はチャンプルーなわけ?」
『なんか、チャンプルーとかおにぎりとか、いろいろやってみたいって言ってたかな』
さっきまで暑さでじっとりぐったりしていたのに、食べ物の話題になるとキラキラとした目で見てくる慧くんに、思わず癒されて、今度スパムおにぎり差し入れようと心の中で誓う。
「上代、暑くねーらん?」
『暑いけど日傘で助かってるよ』
「……水分補給も大事ですよ、ほら」
『え、』
えいしろーが差し出すラムネ瓶に鼻がぶつかる。
透き通る水色の世界が広がって、ぷつりぷつりと泡がはじけるその奥で見つけた文字に、あ、と大きな声をあげれば、みんなが私に注目した。
「今度はぬーがや」
『蛍!』
「ほたる?」
『ほら、あのポスター!』
「ああ、もうそんな季節ですか」
『蛍見られるの!?』
「公園に行けば見れるやしが」
『そうなんだ……』
そういえば小さい頃家の近くにある庭園で蛍を見たことがあった気がする。あまりはっきりは覚えていないけど。
「じゃあみんなで見に行くかー?」
ラムネ瓶から器用に取り出したビー玉を洗っていた平古場が、そう言いながら振り返る。
私の方に投げてきたビー玉を慌てて取ると、んじゃ明日の夜8時ここで、と簡単に約束を取り付けるので、流石に今日の明日は迷惑じゃないかな、と心配してみんなを見たけれど、いつの間に取り出したのだろう、私にラムネのビー玉を渡しながら、また明日、なんて言いながら歩きだす。
みんなのまた明日が、どうしようもなく嬉しくなってしまって、私はスパム缶が入った買い物袋をがさがさがちゃがちゃ音を立てながらスキップしながら帰路についた。
……ただ、もらったラムネは言わずもがな。