夏ゾンビ

『暑いね』

「そうだな」

『めっちゃ暑いね』

「うん」

『暑い……』

「……」

「うっとうしいですよ上代さん、甲斐くん」


椅子の背にぐったりともたれて目をつぶっていた私は、半目で声の主を見上げた。
木手永四郎、リーゼント野郎だ。
はしたないですよ、なんて言いながらため息を吐いたえいしろーでさえ、うっすらと汗をかいている。
ゆうじろうによると、今日はいつもよりさらに暑いらしくて、教室中こんな感じだった。ゾンビみたい。


『えいしろーも暑いんでしょ、無理しなくていいよ』

「俺は別にこのくらいなんともない」

「ぜってー嘘やっし」

「甲斐くん」

「ごめんちゃい!ごめんちゃい!ゴーヤーだけは勘弁さぁ!」

「分かればいいんです」


いつもの茶番を耳で聞きながら、窓から入ってくる風を待つ。
しかし、涼しい風なんてもんは入ってこない。
さっきから熱風だ。もう無理、まじサボりしよ……と言いたくもなる。
現に数人教室から消えた。


『っていうかなんでえいしろーここにいるの』

「ああ、そうでしたね、あまりの光景に忘れていました」

『ブスとでも言いたいのか』

「甲斐くん」

『無視か』

「今日の部活は予定を変更して海岸荒行にしましょうかね」

「あー……」

「どうせあなたたち、暑いからって練習に身が入らないでしょう」

「そうだな」

『海岸荒行?なにそれ』

「知りたいですか?」


不敵な笑みを浮かべたえいしろーは、私にじりじりと近づいてきた。
え、何急に怖い。暑い。怖い。


「崖から落とされた岩10個をかわす×5セット、20キロの錘をつけての潜水を3分間×5本、割れたガラス瓶の上を縮地法で渡る×5本」

『えっえ』

「これが海岸荒行さぁー」

『何それ怖い。テニスして』


上代さんもしますか?なんてにやにやとドS顔で再びにじりよられて、私はもう怖くて怖くてしかたなかったので、全速力で逃げました。暑い。
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