相合傘


「あなたね、また倒れますよ」

『あ、えいしろーだ。何してんの』

「何をしているのかはこちらのセリフですが」

『日陰を探してるだけだよ』


炎天下をなめていたわけじゃない。
前例もあるし、これまでも気を付けていたつもりだ。
だけど、暑さに耐えられなくて、冷蔵庫を開ければ、アイスもジュースもない。それならもう一択、コンビニに行くしかない。
帽子を被って飛び出したけど、予想以上の暑さに、小さな日陰に避難していたところ、えいしろーに見つかってしまった。それだけ。
深い深いため息を吐いたえいしろーは、私の腕を引っ張ると、何故か手に持っていた日傘を開いた。


「どこに行くんですか」

『あ、えっとコンビニだけど』

「行きますよ」

『え、ちょっと待って』


これは日傘に入れてくれる上にコンビニまで送ってくれるってことだろうか。
もたもたする私に、ひどくめんどくさそうな視線を向けて、ほら早くと促す。
ちょっと奇抜なデザインだけど、女性物で相合傘なんて、流石に狭くて、時折肩が触れてしまって、えいしろーだと分かっていてもやっぱりドキドキはしてしまう。


「顔が赤いようですけど、あなた本当に熱中症にでもなったんじゃないでしょうね」

『あ、あはは、まさかまさか』

「信用できない」

『そんなはっきり言わなくても……そ、それより、なんでえいしろーが日傘持ってるの?』

「ああ、これですか?俺はよく服飾デザインをしているんですが、たまには趣向を変えようかと思いまして」

『それで日傘……?』

「……」


え、なんでそこで黙るんだろう。
私何か変なこと言ったかな。
見上げるとばちり、えいしろーと目が合ってしまって、なんだか気まずくて目を逸らしてしまった。


「あなたに差し上げますよ」


蝉の声にかき消されそうな小さな声で、そう言うので、すとんと腑に落ちてしまった。
これ、きっと私へのプレゼントだ。
えいしろーに会ったのも偶然じゃなくて、私の家に届けようとしてくれていたんだ。
じわじわとうれしさがこみあげてきてしまう。


「あなたやっぱり顔が赤いですよ」

『……えいしろーも熱中症なんじゃない』

「なっ、」

『ありがとう、えいしろー』


なんのことですか、と言いながら前に向き直ったえいしろーは、なんだか嬉しそうに笑っていた。
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