あいつの背中

ねえ、本当に勘弁して。誰こんなの企画したやつ。絶対平古場とかゆうじろでしょ。最悪。


「残念だったなぁ、わったーじゃなくて2年が企画したやしが」

『ひっ、平古場、急に後ろから声かけないで!』


怖がる私を気分良さそうに見てる平古場に腹が立つ。
夕食の後、急に、レクレーションしますよ、なんて木手が宣言して、待ってましたと言わんばかりにその場が沸いた。
その時は私だって、何をするんだろうってわくわくしてた。わくわくしてたけどさ!?まさか肝試しなんて企画してるとは思わないじゃん!?誰が監修したの?って問い詰めたいくらい、妙に凝った演出に加えて、木々のざわめきや動物たちの鳴き声がリアリティを増して、怖くって仕方がない。
しかも、よりにもよって、最後の一組になるし、さらに言えばこの意地悪な平古場がペア!
天は我に味方せず、こんなことってない。
真っ暗な夜の林に、懐中電灯が二つ、小さくて頼りない光がふよふよと彷徨う。


『なんでペアが平古場なんだろ……』

「はぁ?」

『平古場絶対私のこと見捨てるじゃん……』

「まぁなあ」

『ほらー!やっぱり、知念くんとペアが良かった』

「……」

『平古場?』

「……ぬーがやそれ」


平古場は何かつぶやいて、私の横に並んだかと思うと、そのまま手を引いた。


「裾……掴んどけー」

『え、なんで』

「なんでって……」

『?』

「……別に守らねえとは言ってねーらん」

『そ、そっか、ありがとう』

「おー」


急にどうしたんだろう。
暗すぎて平古場の顔は見えない。
でもなんだか、怒っているような、そうじゃないような、戸惑いみたいなものも多く含んだような雰囲気に、思わずどきりとする。


「上代」


ふいに名前を呼ばれて、立ち止まった平古場の背中にぶつかる。


『え、何』

「目ぇつむりながら歩くな」

『あ、思わず。頼りにしすぎた』

「バカやっさー」


バカとは失礼な!
抗議の気持ちを込めて裾を引っ張れば、デコピンをくらった。痛い。
でも、さっきとは違って、やさしく笑う平古場に少しだけほっとする。まだまだ怖いけど、ほんのちょっぴり、その背中が心強くて。


「上代、もうすぐゴールばぁよ」


そう言って裾を握っていた腕をつかんだ平古場は、そのまま私の背中を押す。
突然のことに驚いて、身構えるものの、私の体はいつの間にか慧くんに支えられており、にっと笑った慧くんと目があったかと思うと、そのまま担ぎ上げられた。あっという間にみんなに囲まれて、ふわりと私の体は宙に浮く。胴上げされていると理解する頃には、やっと、みんなの楽しそうな笑い声や、にふぇーでーびると口々に飛び交う言葉が耳に入ってきて、じわりと視界が滲んだ。
なにこれ。
ゆっくり地面に下ろされて、そのまま力なくその場にへたりこむ。
本当に、なにこれ。


「上代ー泣くなやー」

『だって、平古場、なに、これ』

「なにって、サプライズやしが、なぁ?」

「やさやさ!」

『意味わかんない……』

「みんな、あなたに感謝を伝えたかったんですよ」


涙でぐちゃぐちゃになって、もう、怖いんだか、嬉しいんだか、もうなんなのかわかんない。
にふぇーでーびるなんて、私のセリフなのに。
よそ者の私を受け入れてくれて、頼りにしてくれて、そんなの、私の方が感謝してるのに。
次々とあふれてくる涙で、何も言えなくなってしまう。
ゆうじろうがタオルを貸してくれて、ようやく落ち着いた頃、帰ろうと、平古場が手を差し伸べてくれたけれど、どうやら私は腰を抜かしてしまったらしい。立てずにいると、呆れたように笑った平古場がしゃがみこんで、くるり、背中を向けた。


「ほら」

『なに、平古場』

「わんがおぶる」

『い、いいってそんなの』

「早くしれー、立てないやっし?」

『うう……』


悔しいけど、平古場の言う通りで、おとなしく彼の背中に寄り添えば、しっかりつかまっとけーと言いながら、私の腕を首に回させる。
ひやかすような声が聞こえて、恥ずかしい。
でもそれ以上に、平古場の背中がこんなに大きかったのも、あたたかくて、安心してしまう自分がいるのも初めて知ってしまった。


『なんだかなぁ……』


私は、聞こえてしまわないような声でそう呟いていた。
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