星落ちる海
それに食いついていってるのもすごいし、誰も逃げ出そうとしないのもすごい。
本当に、テニスにかけているんだ。
それでもやっぱり疲労も重なり、ケガをする人や、暑さにダウンする人も増えてきた。
いつも以上に調理場と砂浜を往復して、ドリンクを切らさないようにしたり、何度も洗濯したり、干したり。応急処置も最初のころに比べると、手際もよくなってきた気がする。
そりゃ毎日こんなことやってるマネージャーじゃないから、下手の横好きってやつだろうけど。自分ができることを精一杯やるって決めたから、目の前のことを頑張っている、つもり。
「上代こっち、ドリンク頼めるかー?」
『はーい!ちょっと待ってて!冷たいやつがよかったよね?』
「やさやさ!」
「あがー!なんか踏んだ!絆創膏あるばー!?」
『防水のやつ用意してる!』
「流石!にふぇーでーびる!」
「上代さん、タオルもらえます?」
『はい!ふかふかに仕上げといたよ!』
「あ〜太陽の匂いするさーね」
みんなともだいぶ打ち解けてきた気がして、それも嬉しい。
休憩も終わりに近づくと、ようやく忙しさもひと段落するが、そろそろ回していた洗濯機が止まるころだ。
小屋に戻ろうとした時、ふいにゆうじろうたちの声が聞こえてきたのでこっそり覗くと、ゆうじろうの他に、えいしろーと早乙女監督がなにやら話をしているようだった。
「あいひゃー……上代でーじ働きものやっさぁ」
「彼女よくやってくれていると思うんですが」
「……ぬーが言いたい」
「そろそろ認めてやったらどうですか」
「……」
早乙女監督はそれっきり何も言わず、休憩終了の声を上げて、テニスコートに向かって行ってしまった。
やっぱりまだまだダメか。
まあ、私だってそう思うし。
気にせずやれることやろう。
なんて、思ってたけど。
夕暮れ、ご飯の支度をしにコートから出ると、早乙女監督に声をかけられた。
「……」
『……どうかしましたか?』
「……怒鳴って、悪かった」
『へ?』
「だーから、やーのこと認めるって言ったやんに」
『え、あの、えっと』
「しっかり励めー」
『あ、はい!ありがとうございます!』
少しだけ笑った監督にびっくりしたけど、こんなこと言われると思ってなかったから、なんだか嬉しくて、夕飯のカレーは監督のだけお肉多めに入れてしまった。
「何をぼーっとしているんですか」
『星がさぁ、綺麗だなって』
その夜、砂浜に出て、一人空を見上げていると、えいしろーに見つかった。
薄着で夜の砂浜にいると風邪ひきますよ、なんてお母さんみたいなことを言うので笑っていると、一筋、海に星が落ちた。
『流れ星だ』
「灯りが少ないのでよく見えますね」
『本当だね』
流れ星なんて、生まれて初めて見たかも。
そもそもこんなにいっぱいの星なんて見たことなんかない。
こんな風に空すらゆっくり見上げたこともあったかどうか。
夜気をたっぷり吸いこんで、えいしろーに、ありがとう、と言うと、なんのことですか、なんてとぼけるので、私はまた笑ってしまった。