Surfacing

早乙女監督が乗り込んできて二日目。
どんどん厳しさが増す練習を、私はただただ眺めることしかできない。
少し影が差す場所を探し、小さなレジャーシートを敷いて、ドリンクと軽食を詰め込んだクーラーボックスを肩から下せば、少しだけ休憩をもらったという知念くんに声をかけられた。


「重くなかったばぁ?」

『このくらい全然、それよりも……』


私の視線を追い、一つ息を吐きだした知念くんは、静かに、海に入らんば?と聞いてきた。
とてもそんな気分じゃない。
みんなが頑張ってる横で、呑気に波と遊ぶなんて、流石にそんな神経はしてない。
でも、優しい知念くんのことだ。こんなこと、正直に言ったら余計に気を使わせてしまうだけだし。


『ほら、私水着持ってきてないしさ!』

「だーるばぁ?」

『うん、忘れてきちゃった。だから気にしないで?』


上代がそういうなら、と、まだ何か言いたげにしながら、みんなの元に戻っていったが、何故かその後すぐ、みんなを連れて走って戻ってくる。
いやホント怖いんだけど。みんな目がマジなんだけど。
すごい勢いで囲まれて、後ずさりをするものの、意地悪な笑みを浮かべたまま私を担ぎ上げて、あろうことかそのまま海の方に全力疾走するではないか。


『待って待って待って!?なにしてんの!?』

「しんきくせえ顔してる方が悪い」

「やさやさ!」

「さあ、上代さん、大きく息を吸い込んで」

『は!?何!?』

「いくやっしー?」

『えっ、うそでしょ!?ちょっと、慧くん!?知念くん!?平古場!?ゆうじろう!?えいしろー!?』

「せーの!」


私の体はそれはそれは真っ青な空に放り出されて、大きく円を描いて、そしてそのまま大きな水飛沫を上げながら、ゆっくりと海の中に落ちていく。
あ、これは、ダメだ。
息を止め損ねて、思いっきり海水飲み込んじゃった。
それに私、泳げないんだっけ。
ホントなにやってんだろ、私。
海中に射す太陽の光がゆらゆら揺れて、思わず手を伸ばすと、光の中から誰かの手が腕をつかむ。強い力で引っ張り上げられて、ようやく、吸えた空気に思いっきり噎せてしまった。


「やったーしに危ないさぁ!?」

「わ、わりぃ、ちょっと勢いづきすぎた」

「にふぇーでーびる、不知火」

「お、おう……知念……」

「流石素潜りが日課なだけありますね、不知火くん」

「いいけどよ……上代さん大丈夫か?」

『……』

「上代さん……?」

「やばい、上代のやつ、でーじ怒ってるさぁ!」

「裕次郎謝れ」

「そうですよ、甲斐くん謝りなさい」

「待って、なんでわんだけ!?」


もー無理。おっかしいの。おかしすぎて笑いしか出てこない。
笑い出した私に、おろおろしだすゆうじろうもおかしいし、心配そうに見てる知念くんや、助けてくれた……不知火くんだっけ、二人の顔もおかしいし、バカがさらにバカになったみたいな失礼な顔してるえいしろーや平古場もおかしいし、絶対もうお昼ご飯のことしか考えてない慧くんもおかしい。
なんかぐだぐだ悩んでた私がバカみたい。
私が悩んでたって、何も解決なんかしないのに。
ただ、今は、彼らの傍にいる以上、自分のできることを精一杯しよう。
まずは、彼らのためのおいしいお昼ご飯からだ。
みんなは騒いでたことに怒られて、早乙女監督に練習量増やされていたけど、私はなんだかすっきりした気持ちで、その場を後にした。
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