いつもと違う夜
そんなお誘いをもらったのは、終業式が終わって、帰ろうと靴箱のところに来た時だった。
ちょっとこんな人の多いところで!と思ったけれど、誰も私たちには注目していないみたい。
そりゃそうだ、みんな夏休みのことしか考えてないもんね……。
「あ、変なお誘いではないですよ、残念でしょうが」
『ちょっと待ってよ、なんで私が少しでも期待したみたいに言ってるのよ』
「違うんですか?」
『断じて違うわ!』
「それじゃあ、夜8時に迎えに行きます」
あ、そこはちゃんと紳士なんだ。
えいしろーは用は済んだとばかりにテニスコートへと去っていく。
なんだってんだ、改めて。
私は不思議に思いながら靴を履いた。
夜ごはんも食べ終わり、いつものように連ドラ待機しようとテレビの前に座り込んだ瞬間、インターホンがなった。
誰だこんな時間に。
玄関のドアを開けると、むわっとしめった空気が流れ込んできて、次いで見慣れぬ男子が目に入った。
え、私こんな人しらない。黒髪で少し前髪が長くて眼鏡で知的っぽい男子。
『どちらさま?』
「迎えに行くと言ったでしょう」
『えっ!もしかしてえいしろー!?』
「人の顔も忘れましたか」
きゅっと眉を寄せたえいしろーは、前髪をかきあげて、私を外に連れ出した。
えいしろーは私に構わず歩き、私はその斜め後ろを早足でついていく。
しっかし、これがえいしろーとは。いつもオールバックだから全然気づかなかった。
なんだか少し幼く見えるかも、とにやにやしてたら、何故だかえいしろーにはたかれた。
『で、用って何』
「地獄の七日間の日程を組み立ててください」
『……は?』
「合宿ですよ、合宿」
『わかってる』
「その日程や、食事の献立を上代さんに考えてもらいたい」
『なんで私?』
「あなたを招待すると言ったでしょう」
『いや、そうなんだけど、なんで私を招待するの?他にも適任いるんじゃないの?』
「……」
『えいしろー?』
「もう上代さんを連れて行くということで学校側に話を通してしまいましたから」
『そ、それでも言わなければばれないよ』
「寧ろなんでそんな拒絶するんですか」
『いや拒絶はしてないけど……』
「じゃあ、決まりですね。お願いします」
もう勝手なんだから。そこまで言われてしまえば、断る理由も別にあるわけじゃないし。
しょうがないなぁ、と一言口からもらせば、えいしろーは少し安心したように笑った。
『ただ一つ条件!』
「何です?」
『私初めてだし、合宿のことよくわかってないから、みんなの意見取り入れたいんだけど』
「ああ、それなら明日ミーティング開きましょうかね」
『うん、お願い』
「どうせ合宿前に一回集まっておこうと思ってましたし」
詳しいことはまた明日連絡します。
家の近くをちょうど一周ぐるりとし終えたところで、私たちは別れた。
こうして私の合宿参加は正式に決定されたわけだけど。
合宿かー、あの人に電話して極意でも聞いてみようかな。