セミは今日もないている
「ん?」
『セミの観察ってしたことある?』
「……は?」
木陰で涼んでいたゆうじろうは声をかけた私を見上げた。
寝ていたのだろうが、そんなもの私は気にしない。気にするわけもない。
ぽかんとした顔のゆうじろうに詰め寄ると、近い近いと眉間に皺よせながらのけぞられた。
そこまでしなくてもいいじゃない。
「セミの観察?」
『そ、セミの観察。殻から抜け出す瞬間』
「うーんあるようなないような」
『私小学校の時やったんだよね。たまたま見つけたから家族で写真とりまくって観察日記作った』
「ふーん」
『セミってさぁ、抜け殻から出たとき本当に白っぽくて凄いんだよね、ゆうじろう知ってた?』
「なんとなく」
『なんだ知ってたのかー』
「散歩してた時に見た気がする」
『また変な時間にほっつき歩いてたの?』
「うるさい」
『……まぁ、いいや。それはともかく。夏休み課題に貢献してくれたあのセミに私は今でも感謝してもしきれず、セミを見ると拝みたくなるんだよね』
あ、あの木にもセミが。なむなむ。
本当に拝んでいると、ゆうじろうは何こいつという目で見ながら、再び眉間に皺を寄せた。
ゆうじろう最近えいしろーに似て来たんじゃないの。
私はゆうじろうの隣に座りこんで、空を見つめる。あーいい天気だなぁー。
セミもなんだかうれしそうに鳴いているなぁ。むしろうるさいくらいだなぁ。
ゆうじろうは思案気に暫く黙っていたが、ずっと握っていた右手をひらいて、私に差し出した。
「じゃあいる?」
『あ、結構です』
「……」
『……』
ゆうじろうの手の中にあったものはセミの抜け殻だった。
「セミ見ると拝みたくなるばぁ?」
『うん』
「だからはい、上代にあげる」
『結構です』
「なんでよ」