温暖化を食い止める

「ぬーがや上代どうしたんかやぁ」

『慧くん』


体育の授業、日陰のないグラウンドで、少しだけでも陰はないかと探している私を、慧くんが見つけてくれた。
慧くんは転がってきたボールを取りに来たみたいで、そのボールを見つけると、男子の集団の方に投げ、私の顔を覗き込んだ。


「でーじ顔色悪いさぁ」

『うん、ちょっと貧血っぽい』


朝ごはん抜いちゃったしなぁ。それにちょうど血が足りない日だし。
暑さと日差しにもやられて、ふらふらだ。
そんな私を気遣ってるのか、偶然なのか、慧くんは太陽の前に立ちはだかってくれた。
ありがとう、慧くん。今慧くん、私の温暖化を食い止めてるよー。


「先生呼んでくる」

『いいよいいよ、保健室行こうと思ってるし』

「でも」

『慧くんは授業戻っていいよ』

「そうかやぁ……?」


大丈夫大丈夫。そう言って私は慧くんに手をふった。
暫くこうして蹲ってよう。足音が遠ざかっていくのが聞こえて、私は気分の悪さが落ち着くのを待つ。
しかし一向によくなるどころか気分の悪さは増すばかりだった。
あ、もうだめかも。
意識が遠のきそうになった時、急に体制がぐるりと変わった。
私の目の前には慧くんの怒ったような顔がある。


「ほら!やっぱり大丈夫じゃないやっさあ!」

『け、慧くん?』

「上代ちょっと我慢しれー今保健室連れてくさぁ」

『え、いいよ、そんな、私重いし、自分で歩ける』

「ゆくしやさに!」

『ホント大丈夫だから!』

「……ちょっとは頼れー」


むすっとした表情で、いつもと違って小さくつぶやくように言った慧くんに、私は何も言えなくなってしまった。
お姫様だっこの状態で恥ずかしかったけど、なんとなく嬉しくなって、笑ってしまったら、慧くんも笑い返してくれた。
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