それは幻ではありません

『ねぇ、私最近幻が見えるんだけど』

「何の話ですか、頭でもおかしくなりましたか。あ、元からでしたっけ」


ちょっと待ってよ、
なんで頭おかしくなったくだりと元からってくだり間髪入れずに言ったんだよ。
むう、とふくれてみせれば、ゆうじろうがあははと笑った。
なんでお前が笑うんだよ。


「でー?上代幻って何見たあんに?」

『聞いてはくれるんだ』

「?」

『いやさぁ、昼ごろってさ、沖縄の人誰も外に出ないじゃない?』

「まぁ、そうですね」

「暑いからなー」

『なのにさーこの前見ちゃったんだよねー』

「何をです」

「上代ぬーを見たんかやぁ?」

『こう、ちょっともやもやーってした人影』

「ただの通行人やあらに?」

『すっごくだるそうにふらふらずるずる動くんだよ……私ちょっと怖くなってさー急いで家に帰ったんだけど』


ああ、今思い出してもぞわぞわってする。
海の方に歩いていったから、神様か何かだったのかな。
なんか頭がもっさもっさしてたし。


「上代さん、それいつの何時ごろですか」

『え?土曜日の13時くらいだったかなぁ』

「そうですか」

『え、何々えいしろーどうしたの』

「いえ、なんとなくその正体がわかりましたよ」


えっ、とゆうじろうと一緒にえいしろーを見る。
落ち着き払った表情のえいしろーは腕を組んだまま、口を開いた。


「甲斐くん」

「え、わん?」

「土曜日あなた海でこっそりアイス食べてたでしょう」

「え!」

「あなたのお母さんに教えたのは俺ですよ」

「あああああ!あれ永四郎のせいかやぁ!」

「あなたが悪いんでしょう」

「えーしろおお!」


何、何。話が見えてこないんだけど。
一人ぽかんとしていれば、それに気づいたえいしろーが鼻で笑った。


「あなたが見た人影は甲斐くんですよ」

『そうなの?』

「海の方に歩いて行ったでしょう」

『なんでわかったの!?』

「あの時間帯甲斐くんは出歩いていた。母親に内緒で冷凍庫のアイスを持ちだしてね。あなたが見たのは蜃気楼ごしの甲斐くんの後姿です。幻ではありません」

『……何やってんのゆうじろう』

「だって食べたかったやしが」

「甲斐くん、その前に5個くらい食べていたでしょう」

「それまでばれて……!」

『お腹壊すよ』

「……」

「そうですね、甲斐くん」


現にお腹を壊して日曜日の部活を休んでいたことが後で発覚した。
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