ひとりぼっち


今年の梅雨はどうやらちょっとおかしいみたいだ。
空梅雨なのかな、なんて思ってたら急にバケツをひっくり返したような雨が降る。しかもお天気お姉さんの話によれば長引くみたいだし。
なんか気まぐれな猫に見えてくる。近寄ろうとすれば逃げたり威嚇してくるくせに、ぼんやりとしていたらすりよってくる。そんな感じ。
雨も猫もジローくんみたいだ。
さっきまでぱらついていた雨はいつの間にかやんでいて、雲間から眩しいほどの太陽の光がグラウンドにふりそそいで地面をいっきに乾かしている。
今日はジローくんは来ていない。ぽっかりとあいた席にまた寂しくなったけど、心のどこかでほっとしている自分がいた。
なんでほっとしてるんだろ。
先生の言葉は耳に入ってはどこかに飛んでいく。いっそ私もこんな授業なんてさぼってしまいたい。さぼりたいさぼりたいとそう思うのに、今まで真面目に授業だけは出てきた分躊躇われる。結局私もまわりの評価を気にしてるつまんない人間なんだろうなぁとか思ったりしてるうちに授業は終わった。
眠たい。寝ちゃおうかな、ジローくんみたいに、って思ったのに、友人が私のそばにきた。


「なにぼーっとしてんの、次移動教室だよ」
『わかってる』
「じゃあほらいくよ!」
『んー……先行ってて』
「はいはい」


友人は私の肩をぽんっと叩くと教室を出て行った。……私も準備しよ。
次、音楽室だっけ。学校の方針だかなんだか知らないけれど、音楽の授業はよくクラシックを聴く。確かに素敵なんだけれど、それ以上に眠くなって仕方ない。
いつの間にかみんな出て行ってしまったのか私一人になってしまって、なんだかこの前の放課後を思い出した。


『……早く行こう』


教科書と筆箱を取り出して、教室を出る。ここから音楽室は少し遠い。渡り廊下を早歩きで歩いていた時だった。
視界にちらっとあの見覚えのある髪の色がうつって、私は思わず足を止める。後姿しか見えないけれど、中庭の大きな木の陰に猫を抱きかかえて座っているジローくんがいた。
そっと気づかれないように近づいてみれば、優しく頭を撫でてもらっている猫が気持ちよさそうに目を細めている。


「お前もひとり?」


びっくりして変な声が出そうになってあわてて口を押さえた。


「そっかーひとりかー」


猫を持ち上げて、じっと目を合わせるジローくんと猫。
なんだ、私じゃなくて猫に声かけていたのか。私がここにいるのばれていないのか、と思って少しほっとする。
ちょっとだけうらやましいな、なーんて。猫に嫉妬しててどうすんだろ。


「ひとり、ね……俺と一緒だC」


そう言ってジローくんは笑った。
その言葉に思いっきり頭を殴られた感覚がした。
ひとりだなんて、なんでそんなこと。そんなことないのに、どうして。
いつだって彼のまわりには誰かしらいたのに。彼のことを大切に思う人なんていっぱいいるのに。なんで。


「俺だけ残されちゃった」


ぽつりとこぼれた言葉はチャイムで掻き消えそうになる。
なんだか、ジローくんが急に遠く感じた。消えちゃいそう。消えてなくなってしまいそう。残されてるのは私の方だよ、なんて言いたかった。
私はまた気づかれないようにその場から走って離れた。
その日、生まれて初めて授業をさぼった。
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