わがままなかんじょう


ジローくんと帰った次の日、その日も雨が降っていた。
私は普通の傘を手にかけて、やめた。そばに置いてあった折り畳み傘を開く。
これでいこう。なんとなく、折り畳み傘で行こうと思った。昨日のことも影響してるのかもしれない。
学校について、折り畳み傘で来たことを友人に言えば、呆れた顔をされた。うん、とっても馬鹿馬鹿しいと自分でも思っている。
今日も隣の席は誰もいない。


放課後になってもまだ、大粒な雨が降っていた。
やっぱり普通の傘持って来ればよかったなんて後悔しても遅い。一人残った教室に雨の音が響いて、少し開けっ放しの窓からはしめった土の匂いと風が入ってくる。
雨か。雨は嫌いだ。でも、少しだけ、好きになれた気がする。
昨日のぬくもりがまだ手に残っている気がして、ぎゅっと握った。
やっぱり私の手は冷たい。
時計が5時をさす。ちょっと小降りになってきたし、もう帰ろう。そう思って、やりかけた宿題と教科書を鞄につめこんで教室を出た。校舎を出ると、そこは昨日ジローくんに会った場所で。大きな青い傘を持ったジローくんと一緒に帰ることになった場所で。でもそこには誰もいなくて、ちょっと期待してた自分に笑った。


『いるわけないのに』


早く帰ってしまおう。そう思って折り畳み傘をさした時だった。
あの見覚えのある青い傘が目の前を通りすぎていく。
ジローくんだ。ジローくんがいる。泥がはねるのも気にしないで走った。


『ジローくん……!』


ゆっくりと振り返ったのは、やっぱりあのジローくんで、少しびっくりした顔でこちらを見つめていた。


「にこちゃん?」
『ジローくん、おはよ……っ!』
「えっと、おはよ?」


嬉しくて嬉しくて舞い上がって、思わずおはようって言っちゃったけど、今はもうそんな時間帯じゃない。馬鹿みたいだって思うけど、それどころじゃなかった。私のことちゃんと憶えててくれていた。そのことでもう頭がいっぱい。


『部活は?』
「今日は雨だから休み」
『そっか』
「傘……今日は忘れなかったんだね」
『……うん』


私の顔を覗込んで、少し残念そうに笑って言うものだから、実はあの時も持ってたんだよなんて言えずにただうなずいた。
今日は相合傘はできないけれど、一緒に帰るってことができるかもしれない、と思ったのもつかの間、ジローくんはじゃあここで、なんて言って私の家の真反対に向かって歩く。
急いでまたね、と言ったけれど。あれ、もしかしてジローくんの家って……。
うそだ、そんな。
じゃあ、この前私の家まで送って行ってくれたのは自分の帰り道じゃなかったということ?
自分の家の真反対の私の家まで送ってくれたということ?
どんどん小さくなっていくジローくんの後姿を見ていたら、胸がぎゅっとしめつけられた。
話したこともないし、クラスメイトとしても気づかれていなかった、ただ居合わせただけの私に、どうしてこの人は傘を差し伸べてくれたんだろう。
なんでこんなにも優しいんだろう。
その優しさが苦しい。期待してしまいたくなる。
嬉しいのに、それでもいっそ優しくないままでいてくれたら、期待なんてしないのに。
ホント私ってわがまま。
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