こたえ


「入る?」


少し掠れた声で、ジローくんは傘から顔をのぞかせた。
雨が降る。そう確信した時、ジローくんに会うこともなんとなく確信していた気がする。
久しぶりに見たジローくんは、眠たそう、というよりは疲れたような顔をしていた。
私は、ジローくんの目を見ながら、小さく首をふった。
また、あの日々を繰り返すわけにはいかないから。ジローくんがつらいのは嫌だから。
これ以上、ジローくんが雨に打たれ続ける必要なんてないんだ。
ぐっとこらえた涙は、それでも私の頬をすべろうとしている。


「そっか」


そう呟いたっきり、ジローくんは唇を噛んだまま、その場を動かなかった。
沈黙の中二人、雨の音しか聞こえない。
それでも、その雨の音すら小さくなり始めていた。
今のうちかもしれない。
折り畳み傘を開いて、一歩、足を踏み出した瞬間、手を掴まれて、そのままジローくんの腕の中にすいこまれていった。


「俺、にこちゃんに話したいことがある」


彼の胸に耳を当てていると、少しだけ早い鼓動が伝わってくる。
ああ、こんなことされたら、また期待しちゃうよ。
おしまいにしたのに、それでも私ジローくんが大好きなんだよ?
またジローくんを苦しめてしまうかもしれないんだよ?


「いっぱい考えた。めちゃくちゃ考えたC」


ぽつりぽつりと、震えた声が耳元をかすめる。


「……でも、ごめん、忘れることはできなかった。あいつも……そしてにこちゃんのことも。こんな曖昧じゃ、二人に怒られるってことも、ひどいことをしてるってことも分かってる」


少しだけ彼の顔を見上げると、苦しそうに笑ってた。


「でも俺は、今は、にこちゃんと一緒にいたい!一緒にまた、帰りたい!」


私は、本当に彼の隣にいてもいいのだろうか。
私は、本当に彼のことを好きでいてもいいのだろうか。
彼を傷つけない自信はないけれど、それでも。ジローくんは私と一緒にいたいと言ってくれているのだろうか。
彼の目からは大粒の涙があふれてきて、私はあわてて彼の涙をぬぐった。ぬぐってもぬぐっても、ジローくんの涙は止まらなくて、でもそれでも私は、その涙を受け止めなければいけなかった。
彼の隣にいることを選ぶってことは、きっとそういうことだから。


「……雨の日にまた、大切なものを失うのはもういやだ」
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