つゆがあける


もうおしまいにしよう。
お互いを騙して、お互いを利用していたこれまでの日々を。
幸せで苦しかった日々を。
そう言って私は笑った。
ジローくんはそんな私を見つめて、涙を流した。
そして、送ってく、とだけ言った。
でも、私は鞄の奥底にあった折り畳み傘を取り出して、彼をその場に残して、彼が私の名前を叫ぶのにも応えずに、一度も振り返らずに自分の家へと走った。
これでよかったんだ。
やっと私も彼も息ができるんだ。
きっとこの息苦しさは走ったせいなんだ。
私はたどり着いた玄関先で、気を失った。


あれから一週間、ただでさえ体調を崩していたにも関わらず、長時間雨に濡れていたせいか高熱が続き私は学校を休んでいた。
ジローくんがどうなったのかもわからない。
親からの情報しかない私は、ベッドの上で、ただ、梅雨が明けたことだけが知らされた。


体調も回復し、久々に学校に向かえるようになった私は、なんとなく空を見上げた。雲一つも無く、真っ青で、太陽がまぶしい。
本当に、梅雨が明けてしまったんだ。
学校までの道のりは、まだなんとなくジローくんの面影が残っているようで、私はなんだか泣きたくなった。
騒がしい校舎に入って、教室につくと、友人が笑顔で出迎えてくれて、席替えしたことを告げられた。
私の席は、もうジローくんの隣じゃないんだ。
そう思うとなんだかとてつもなく寂しくて、それでも少しほっとしてしまっている自分がいる。
教室にはジローくんの姿はやっぱり無かった。


新しい席は、窓側の一番後ろで、開けはなされた窓からはさわやかな風がふいていた。わけのわからない数式は相変わらず頭に入ってこなくて、私は窓からそっと中庭を覗いた。
今頃ジローくんは何をしているんだろう。
俺も一人だ、とジローくんが猫と話していたあの大きな木の下は、やはり居心地がよさそうで、あそこで昼寝をしたらどんなに気持ちがいいだろうと思う。
そういえば、忍足くんに忠告されたのもあの木の下だった。
忍足くんには嘘をついてしまった。
あんなにジローくんのことを心配してる彼からの言葉は重く重く突き刺さったし、彼の言った言葉は全部本当のことだ。あの時はもう、気付かないフリなんてもうできないくらいにジローくんを好きになってしまっていたけれど、忍足くんの優しさで私は自分の罪深さに気付かされた。
そして、ようやく終わらせることができた。
これでよかったはずだ。
これでよかったはずなのに。
私はもうジローくんの優しさも笑顔もあたたかさも、触れることができないんだと考えると、息ができなくなりそうだった。
苦しさを取り除くためにやったことなのに、矛盾した気持ちが喉にはりついている。
ジローくんとの関係をおしまいにした私が、ジローくんのいない教室で、ジローくんのことばかり考えているなんて。バカみたいって、散々呆れて、笑い飛ばしたいのに、それすらもできないほどに私はジローくんが好きだった。
好きだったって、そうやって過去形にできればよかったのに。
好きな気持ちだけは止められない。
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