さようなら


もう終わりにしよう、そう思った。


『私ね、実は雨が大嫌いだったの』


私は本当の事をジローくんに言わなければならない。


『ねぇ、ジローくん』


今まで一度も言ったことなかったけれど、私、実はジローくんの彼女だった人見たことあるんだ。
あれは確かに雨の日、放課後いつものように帰っていたら、相合傘をして楽しそうに帰るジローくんを見つけた。
雨が大嫌いになったのはちょうどその時。
ジローくんのことは昔から有名だったから知っていたし、そんな有名人の彼女の顔を少しでも拝んでおこうっていう気持ちだけだった。でも、傘から一瞬覗いた女の子の顔を見て、息が止まるかと思った。驚いて声も出なかった。その場から動くこともできなかった。
だって、その子私と瓜二つなんだもの。
私と瓜二つの女の子がジローくんの隣で、幸せそうに笑っているんだもの。
だからね、なんでジローくんが私に声をかけてきたのか、なんで私を傘の中に入れてくれたのか、分かった。
分かっちゃったんだよ。
最初はね、そんなこと考えないようにしてた。気まぐれでもなんでも、似てるからという理由で声をかけてきたんじゃないって、思おうとしてた。だから、期待もしたし、浮つきもした。このままずっとジローくんの隣にいれたらどんなにうれしいだろうって。
でも、だんだんと自分の気持ちと、ジローくんとその周りにいる人たちの態度の変化とを
自覚していくうちに、私は、何度も駄目だって、ジローくんと一緒にいたらきっと、私もジローくんも幸せになれないって、そんなことも思ってた。
それでも、やっぱり、私はどこかで彼女を利用していたんだと思う。
未だに忘れられないほどに好きだった彼女に会いたくないわけがない。
ジローくんが振り向いてくれるなら、ジローくんが望んでいるのなら、彼女の代わりでもいいって、心の奥底でずっと思ってた。


『私って本当に卑怯。ジローくんの気持ちたくさん利用した』


ジローくんといると、必ず彼女の幸せそうな笑顔が頭をよぎるの。
罪悪感でいっぱいになって、苦しくて辛くて、息苦しくて仕方なかった。
自分のことばっかり考えて、いっぱいいっぱいジローくんに意地悪なことを言った。自分が息ができるように。ジローくんが一番辛いのも考えないで。


『最低でしょう?』


ジローくんの瞳は少しだけ揺らいでいて、何か言おうとして口を開けたが、すぐに閉じた。
そうだよね、こんな最低な私にかける言葉なんて何一つとして存在していないのだから。
雨はますます強くなって、私の足もとまで濡らし始めていた。
もう、限界なのだ。


『だからね、もう私一緒にジローくんと帰れない』


この日々に決着をつけなければならない。


『もうこんなの、おしまいにしよう?』


ジローくん。
ごめんね。そしてさようなら。
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