しんじつ、そして


きっと私は罰があたったんだと思う。
そうだ、私は気づいていたのに、知ろうとしなかった。
私は本物のバカだった。いっつも自分のことしか考えないで、ジローくんの気持ちを無視してたのは私で。それなのに、自分のことを思って欲しいだなんてむしがよすぎたのだ。
最悪だ。傷ついていたのは私じゃなくて、ジローくんなんだ。本当に息ができていなかったのはジローくんなんだ。


「なんで追いかけてくんの」


ジローくんを追いかけてついた先はいつかのあの公園で、雨にうたれながら空を見上げていたジローくんは私の足が水をはねる音で振り返った。
びしょぬれじゃん、なんて言ってジローくんは力無く笑った。
笑わなくてもいいのに。いっそ怒って口もきかなければいいのに。
ジローくんは優しかった。どんな時も、残酷なほどに優しかった。
近くのベンチに座ったジローくんの隣に私も誘われたように座る。
髪の毛も制服もぐっしょりと濡れたまま、私たちはお互いの顔も見ずにただただ空を見上げた。雫をたくさん蓄えた雲が空を覆っていて、吹く風もなんだか冷たくて、震えそうになる指先に私は歯を食いしばった。
長い長い沈黙を先に破ったのはジローくんだった。


「俺さ、にこちゃんのこと知らないって言ったけど、それ嘘」
『え』
「君の存在も名前もどこに住んでるのかも全部知ってた」


ベンチに足を乗せて膝をかかえたジローくんは、雨粒を睨みつけながらぽつりぽつりと話しだした。雨音に消されそうなほど小さな声だった。


「にこちゃんの言うとおり、俺カノジョいたの」
『……そう』
「でも死んじゃった」


彼の言葉に私は思わずジローくんを見つめた。死んじゃった?
嘘だ、そんなこと誰も言っていなかったじゃないか。
ただカノジョと別れて、そのカノジョのことを忘れられないとしか。
彼の言葉がぐるぐると体を回って、私は息がうまくできなくなってしまった。
最低じゃないか。私ジローくんにひどいことを言ってしまった。
思い出すなんて、そんなの、そもそも忘れられるわけないじゃないか。
会ってるいるのかなんて、そんなの、会いたくても会えないじゃないか。


「そうだなぁ、あの日もこんな雨の日だったC。
あいつ、幼馴染だったんだけど、昔っから相合傘して帰るのが大好きでさ、付き合うようになってから、違う学校なのにわざわざここまで来て一緒に俺と帰ってた。でも、そうやって一緒に帰ってる時急に倒れて。あいつ病気でさ、そのこと最後まで言わずに俺残して天国行っちゃったの。
俺、なーんもできなかった。ただあの子が倒れるの見てるしかできなかった。
もう、俺まじまじすっげー辛くってさ、悔しくってさ……もうね、なんなんだろう、学校もつまんなくなっちゃって。なんで俺こんなとこいんだろーとか、俺ここにいる意味あんのかなーとか思っちゃって教室に行かなくなったんだけどね」
『ジローくん……』
「そんな時だったなぁ、俺偶然にこちゃん見たの。もうびっくりしたC」


だって、にこちゃん、そっくりなんだもん。
ずっと会いたかったあいつに本当にそっくりなんだもん。
そう言って、ジローくんは笑った。でも全然笑えてなかった。
そんなカノジョに似てる私が気になって、跡部くんに私のことを調べてもらったこと。同じクラスになって驚いたこと。隣の席になってからは特に、カノジョを思い出して辛くて教室にますます行かなくなったこと。でもやっぱり、気になって、たまたま傘を持っていない私を見つけて声をかけてみたこと。私をカノジョの代わりにしていたこと。その度に悩んで苦しんで泣いていたこと。
ジローくんは全部全部話してくれた。


「ねぇ、俺ってまじまじすっげー最低でしょ」


ジローくんは笑って、そして顔を歪めて涙を流した。
あふれ出る涙に、何度も何度も口から紡がれる謝罪の言葉。
私も泣いた。
声を上げて二人で泣いた。
私も、私が最低であることを、彼に告げなければならない。
許され得ない本当の事を、彼に告げなければならない。
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