いきもできない


生まれて初めて授業をさぼった日、私はその日最後の授業っていうのもあってそのまま学校を飛び出した。幸い先生にも見つからず、すんなり学校を出れたことに驚いた。こんなに簡単に出れるもんなんだって。
夕方とはいえど照りつける太陽はまぶしすぎて、肌がじりじりと痛い。もうすぐ本格的な夏が来るのだろう。
ああ、暑いなぁ。
学校近くのコンビニに立ち寄って時間をつぶした後、いつもの帰り道を行こうとして、ふと思いとどまった。ジローくんの帰り道は私と逆だ。この間そのことはわかったのだが、そっちの方向には確か商店街がある。今まですっかり忘れていたけれど、噂で彼がその商店街に住んでるというのを耳にして一度行ったことがあることを思い出した。その時は結局何も証拠はつかめなくて、噂は噂のままということになっていたけれど。
私の足は自然とそちらを向いて、商店街へと歩き出した。
多分まだジローくんは授業に出てないとはいえ学校にいると思う。
いないって分かってるけど、それでもなんでか行きたくなって足を進めてしまった。


『ここか……』


懐かしいな。
あの時は他に何人かのクラスメイトと一緒だったけれど、今は一人。
夕方の買い物の喧騒にまみれながら歩いていると、一際大きな怒鳴り声が聞こえてきた。驚いてその方向を向くとそこはクリーニング屋さんで。寝ぼけた顔で目をこすりながらお母さんらしき人に怒られている男の人とばっちりと目があってしまった。


「にこ……ちゃん?」


まさか、そんな。本当に会えるだなんて。
あれ俺んちなんだよね、なんて笑いながら言ってジローくんはベンチに座って隣を私に勧めた。
ばったりと出くわした後、近くの公園に連れられて来た私はジローくんの隣にゆっくりと腰かける。


「驚いたC。まさかこんなところににこちゃんいるとは思わなかった。しかも怒られてる時だし、かっこわる」
『ご、ごめん』
「なんで謝んの、にこちゃん悪くないっしょ。っていうかにこちゃん家と逆方向じゃね?商店街に何か用だった?」
『ううん、そうじゃないの、ただなんとなく』
「ふぅん?」
『それよりジローくんさっきまで学校いなかった?』
「嘘ついて跡部に送ってもらった」


どうやら私は立ち寄ったコンビニで気づかないうちに長居をしてしまっていたみたいで、とうに下校時刻は過ぎていたようだ。
ぺろっと舌を出して笑ったジローくんはなんだかいたずらが成功した時の顔で嬉しそうだった。
いつものジローくん。いつもと変わらないジローくん。
さっきの寂しそうなジローくんはどこにもいなくて、きっとさっき見たのは何かの間違いだったんだ。彼がひとりだなんて、決してそんなことあるはずがない。


「俺、にこちゃんに会いたかったから今超ウレC」


突然真面目な顔をして私を見つめた後、ジローくんはゆっくり目を伏せて、私の手にそっと自分の手を添えた。あたたかい。あたたかくて大きくて、私の大好きなジローくんの手。
私も会いたかった、だなんて言えなくて、言えたらいいのになんて思って。
でもきっと私とジローくんはそんな関係になんてなれないから、喉の奥に言葉が張り付いて息苦しくてしょうがない。
今まで私は、恋愛ってもっと甘いものかと思ってた。
たまたま運命の人に出会って、気になっているうちにいつの間にかお互い恋に落ちて、そんな二人で過ごす毎日はとてもキラキラして愛おしくて。甘くておいしいフルーツいっぱいのパフェの中に身を投じているような……そんなものかとずっと思ってた。
でもそうじゃなかったんだね。
苦しくて苦しくて、息もできなくなってしまうんだね。
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