清麿と私

天保江戸の特命調査が終わり、ひと段落ついた頃、政府からの調査員として共に戦った、源清麿をわが本丸に迎えることになった。
本丸の案内を済ませ、男士同士の挨拶も一通り終わり、お茶でも飲んで一休みしようと誘ったのは良いが、なかなかこう、話題が思いつかない。
そもそも調査中は、お互い大事な任務中であり、張り詰めた空気の中で和やかに談笑なんてできるわけなかったし……だから、こうやって、面と向かって相対するのは初めてかもしれない。
彼は何を好むのだろう、趣味とかあるのだろうか。得意なことはなんだろう。苦手なものとかもあったりするのかな。なんて、考え込んでいたら、私の視線が鬱陶しかったのだろう。清麿は口にあてていた湯飲みを離すと、私と視線をぴたり合わせてきた。


「僕に聞きたいことがあるのかい」
『あー……えっとごめんなさい、じろじろ見てしまって』
「構わないよ。どうぞ、なんでも聞いてくれていいからね」


湯飲みを置いて、さあ、と促すので、私もそれに応えて湯飲みを置く。
いつの間に飲み干したのだろうか、私の湯飲みはすでにからっぽだった。


『そうだなぁ……』
「うん」
『……この本丸はどう?』
「長らく政府にいたからね……僕自身あまり審神者と関わったことがなくて、評価基準がわからないけれど、ここはとても良い本丸だと思うよ。みんな穏やかな顔をしているね」
『そうなんだ』
「おや、自覚がなかったのかな」
『あまり意識したことがないかも』


駆け出しではないものの、私情により長い期間満足に任務をこなすこともできなかったし、当番や遠征だけお願いして、慌ただしく過ごしてしまった過去がある。修行の許可も出し渋るし、出陣でも、まだ進めると無理やり進ませることもあれば、怖くなって諫めて帰還させることもある。演練も鍛刀もすぐさぼるし、道具がないと、騒いだあげく取りに行ってもらうこともしばしば、思い返すとなかなかの所業をしてきた分、ここが良い本丸だと私はこれっぽっちも思えない。
だから清麿の言葉はちゃんと飲み込むことができなかった。


「機会があったら尋ねてみるといい」
『そうだね、聞いてみようかな。ちょっと怖いけど』
「それも含めて大事なことだと思うよ」
『うん、ありがとう、清麿』


ありがとうと言われたのが意外だったのか、一瞬不思議そうな顔をしたかと思うと、興味深げにまじまじと私を見つめてきた。


「ねえ、君は、」
『うん?』
「君はさ、僕のことをどう思う」


どう思う、と聞かれても。
私はこれっぽっちも清麿のことを知らない。分からない。
なんて答えていいか、悩んだけれど。
でも、ふと、この本丸の門をくぐって、一歩、踏み出した彼を照らした太陽が、まぶしくて、煌めいていたのを思い出す。


『あなたのことはまだ何もわからないけれど』
「……うん」
『太陽の光に照らされたあなたの髪はとても綺麗だったな、って思う』
「え、」
『キラキラして宝石みたい』


清麿は一瞬、面食らったような顔をした後、たまらないと言わんばかりに笑い出した。


「うん……うん、そうだね、君はたいそうおかしな人だ」
『あ、ひどい!』
「ごめん、ごめん……でも、分かった気がするよ。君がそういう人だから、なんだね」
『え?』
「これから楽しくなりそうだよ」


ひとしきり笑ったあと、その笑みを柔らかくのせたまま、私に手を差し出した。


「主、これからどうぞよろしくね」


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