五月雨江は自分のことを犬だと言う。
たまに同時期にやってきた村雲江と共に機嫌よく吠えているのを見かける。
さらには毎日散歩をせがんでふさふさのしっぽを揺らし、どこに行くにも連れて行かないと、どうして連れて行かないのかと不貞腐れる。
『本当にわんちゃんみたいだねえ』
ある日、出陣の後、軽傷を負った五月雨江を手入れしながら、そう言うと、おとなしく目を閉じていたはずの彼の瞳と、ぱちり、目が合った。
わざと擽るように打粉を打つ私の、言葉のその先を促すように、待てをする様子に、思わず笑ってしまう。
『飼いならされた犬みたい』
「……頭は本当にそうお思いですか」
『え?』
あっと気づいた時には、手に持っていた打粉は遠く、目の前に座っていたはずの五月雨江に、腕をまとめ上げられてそのまま押し倒されてしまった。
『あの、ちょっと、さみ?』
「あなたが私の頭というのであれば」
自分の首輪に指をかけて、くいっと引っ張って見せた五月雨江は、その涼し気な瞳に熱を籠らせて私を見下ろしていた。
「早く、私を飼いならしてくださいね」
飼い犬に手を噛まれるってきっとこういうこと。