五月雨江と冷たい朝

これは五月雨江が顕現して間もない頃の話。

障子が開く音と共に、朝日にも満たない光が、すっと顔に差し込んで、重い瞼を押し上げると、私の枕元に静かに座る五月雨江と目が合った。


『え、あ、何?さみ……?』
「頭、入れてください」
『えっ、ちょっと待って』


布団をめくろうとする手を止めると、しゅんと項垂れつつも、その手を布団から離そうとはしない。
それどころか、布団の隙間から、ぐいぐいと頭を突っ込んでくるではないか。
なんと力の強いこと!


『流石にダメだよ、五月雨江!』
「なぜですか」
『なぜって言われても、なんと言えばいいのか……』
「寒いのです」
『え?』
「寒くて、……どうしたらいいのか、わからないのです」


初夏とは言えど、まだ朝は冷え冷えとしている。
人の形を得て、初めて寒さを知り、その寒さをどうしのげばいいのか分からず、震えながら途方にくれていたのだろうか。
私より体格がいいはずなのに、背中を丸めて小さくなる五月雨江を見ていると、たまらず、彼を引き寄せていた。
震えて固まっていた体も、次第に私の温度と溶け合って、ぽかぽかと柔らかくなる。
それまでされるがままにずっと黙っていた五月雨江は、小さく息を吸った。


「頭、」
『うん?』
「人の手があたたかいことを、私はずっと前から知っています」
『うん』
「だから、あなたのそばにいれば、きっとこの寒さも怖くはないと思ったのです」
『そっか』


まるで子供の言い訳のように、そう言うので、思わず笑ってしまうと、不服だったのか、背中にまわされていた腕にぎゅっと力がこもった。


『お布団には入れてあげられないけど』
「そうですか……」
『二人であたたかいお茶を飲みながらお話しようか』
「良いのですか?」
『もちろん』


五月雨江は、その体温を少し名残惜しそうにしながらも体を離したが、それでも嬉しそうに私の手を取って立ち上がる。
開いた障子の向こうには、深い紫色の朝焼けた空が広がっていた。


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