朝はつとめて、雪ながむ

雪が降っている。
庭を真っ白に染めるように、静かに降り積もっていく。
人の音もしないし、動物たちの音もしない。雪がすべての音を吸い込んでいるように思えた。
しんしんと、と言うのは、きっとこういうことを言うのだろう。
珍しく早く目覚めてしまった私は、なんだか二度寝する気も起きず、大きめの半纏で体を包んで、縁側に出るとその場に腰かけた。
布団でぬくもっていたはずの体も一瞬にして冷えて、指先の感覚がなくなっていく。
それでも目が離せずに、いくつも落ちてくる真っ白な粒を眺めていれば、頭、と聞きなれた声が私を呼んだ。


「寒くはないですか?」
『……さみ』
「凍えてしまいますよ」


ほら、手がこんなにも冷たい。
そう言って五月雨江は私の手を取ると、はあ、と息を吹きかけた。
温かい息が指先を掠めて、なんだか擽ったい気持ちになってしまう。
照れ隠しに話題を振ろうと、雪をね、と言えば、五月雨江はようやく顔を上げる。私の目線を辿って、庭を見ると、首を傾げた。


「雪ですか?」
『うん、雪が降っていたから、それを見てたんだ』
「そうだったのですね」
『さみは雪って見たことあった?』
「そう、ですね……どうでしょう、この身を得る前はどこかで見たことがあるかもしれません」
『そっか』
「頭はどうですか?」
『私はさ、あまり雪が降っているところを見たことがなくって。こんな感じなんだなぁ、って見てた』


綺麗だね、と吐く息が白く染まって、そうですね、と答える唇はいつもより赤い。


『なんか、ふふ』
「頭?」
『なんかさ、さみがやって来たばっかりのころ、あなたもここでこんな風に花びらを見ていたよね』
「はて……そんなこともあったでしょうか」
『あったよ』
「人の身や心にまだ慣れぬ時だったのでしょうね」
『そうだね、それに、』
「それに?」
『ひとつひとつに心揺さぶられている感じだった……その揺れる心すらも、なにもかも新鮮で、興味深くて、ただひたすらそれを感じていたくて、浸っていたくて……』
「……」
『そっかぁ、あの時のさみの気持ちってこんな感じだったのかも……』


厨当番が準備を始めたのだろうか。ほのかに味噌と魚のいい香りが漂ってきて、そのまま冷たい空気と共に肺に送り込めば、ぐうとお腹がなる。
それがおかしかったのか、五月雨江は柔らかく笑んで、雪を食べてはいけませんよ、と悪態づく。
そんなことは、きっと、しないけれど。
この美しいものを口に含んだら、どうなってしまうのだろう、と少しだけ興味が沸いた。




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