愛、はんぶんこ

ため息とも取れそうな息を吐く清光は、今日の近侍だ。
いや、訂正しよう。今日だけではない、かれこれ三月、違うな、もう半年ほどだろうか。近侍として審神者の仕事を手伝ってもらっている。
彼は私の初期刀だから、本丸のアレソレは誰よりも詳しく、必然的に頼ってしまう形にどうしてもなってしまうのだ。しかし、近侍だからと言って、出陣しないか、というとそうではなく、実戦経験も誰よりも備えているため、ついつい隊長をお願いしてしまい、疲労蓄積とんでもないだろうし、そりゃあ、ため息もつきたくなるだろう、と私でも思う。


『清光』
「ん?なに」
『あのさ、これ』


疲れた時には甘味だ。
ささやかだけれど、これで少しでも疲れが吹き飛ぶならば、と、戸棚に隠していたおまんじゅうを取り出して、書類の隙間にそっと置く。
意味がわかっていないのか、ぱちぱちと数度瞬きをした清光は、私の顔を不思議そうにのぞき込んできた。


「これ主の好きなおまんじゅうじゃん。この間こっそり隠してたやつ」
『待って、なんで知ってるの』
「主のこと、俺が知らないと思う?」
『……思わないね』
「でしょ」


そう言って笑ったその顔でさえ、疲れは滲み出ていて、ますます申し訳なくなってくる。
食べて、と蚊の鳴くような声で言えば、清光はようやく私の行動の意図が分かったのか、少し気まずそうにしながら、目の下を撫でた。


「俺、そんなに疲れてるように見えた?」
『本当にごめんね……』
「謝らないでよ」
『でも、』
「頼んだのは主だけど、いいよって言ったのは俺だしさ」
『そうだけど……』


諦め悪く未だうだうだ言ってしまいそうな私に、清光はふと笑みをこぼす。


「それにさ、疲れるってことはそれだけ使ってくれてるってことでしょ、愛されてる証みたいで俺は好き」


あまりにも愛しいものでも見るかのような顔で言うものだから、思わず怯んでいると、その間に清光はおまんじゅうをふたつに分けていた。そのひとつを私に差し出すので、いやいやそんなと拒めば、むっと口をとがらせる。


「俺の愛は受け取れないってわけ?」
『えっ!?そ、そうじゃないけど、でも、疲れてるのは清光だし……』
「主も疲れてるでしょ?俺と一緒。ほら、ふたりで食べよ」


唇に触れたおまんじゅうのしっとりと甘い香りに、体の力が抜けて、なんだか無性に泣きたくなってしまった。


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