お手入れ部屋でなおしましょう

君が好き。
そう言われたのはつい昨日のことだった。
出陣後の昂ぶりをそのままに、同じ部隊の皆の前でそう告げて気を失った村雲江を、五月雨江と共に部屋へ運び、何時間もの手入れの末、漸く目を覚ました彼は、何事もなかったように、おはよう、主と言った。
あの言葉は聞き間違いだったのだろうか。
うん、きっとそうに違いない。
そもそも私にはあの言葉に返す言葉なんて持ってないのだし。
そう、思っていたけれど。
ひと月ほど経ったある日、遠征に向かう村雲江を見送ろうと玄関に向かうと、あの日と同じ目をした村雲江が、私に、はっきりと、君が好き、と言うのだ。
何も言えずにただ彼を見つめるしかできない私を、眉尻を下げて笑いながら、じゃあ行ってくるね、と返事を待つこともせず背中を向けてさっさと行ってしまった。
それから彼に言われた言葉をぐるぐると考えて、それでも答えが出なくて、仕事に支障が出るようになった頃、重傷の姿で村雲江は戻ってきた。
気を失う寸前の彼を急いで部屋へと連れて行き、手入れをしていると、君の匂いはやっぱり落ち着くね、とてのひらにすり寄るのを見て、泣きたくなった。
私も彼のことが好きなのかもしれない。
そう思うと、自然と心にストンと落ちてきて、あれこれ考えたのがバカらしくなるほど、すっきりした。
彼が起きたら、返事、しなきゃな。
そう、思っていたのに。
目が覚めた彼は、また、何事もなかったように、おはよう、主と言った。


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