稲穂色の瞳

夏の太陽がてっぺんに差しかかる頃、お昼ご飯のそうめんをすすりながら周りを見渡せば、桑名江がいないことに気が付いた。
隣に座っていた松井江にそれとなく聞くと、やけに不機嫌そうな声で、まだ畑だと思うよ、と言われた。
そういえば今日の畑当番は桑名江と松井江だったっけ。
畑当番をお願いするたびに、桑名と間違えたかな、とやけに圧のある笑顔で言ってくる松井江のことだ。きっと二人の間で何かがあったのだろうと思いつつも、深く踏み込むのはやめることにした。
しかし、この暑さだ。
このような中で日陰のない畑で作業だなんて、丈夫なのかもしれないけど人の身だと思うとほっとけない。
そういえば光忠が西瓜がどうの、と言っていた気がする。
水分補給に持って行ってあげようか。
そう考えて、氷水にひたされた麺をかき集めて、つゆにくぐらせるといっきにすすった。


『くわなー』


自分の背丈よりも高いとうもろこし畑の前に、支給品の荷車が置いてあったので、ここにいるのか、と思って声をかけてみたけれど、うんともすんとも返事がない。
いないのだろうか、どうだろう。
中で収穫をしているかもしれない。入ってみようか。
手に持っていた西瓜がのったお盆を、荷車に置いて、そっととうもろこし畑に足を踏み入れる。
ふかふかとした土の感触が気持ちが良い。
これを桑名江が中心にみんながやってくれているのを思うと、感嘆の声が思わず漏れてしまう。
そうしながら、とうもろこしの葉をかきわけて進んでいると、驚いたような声と共に現れた大きな壁に、うっかりバランスを崩してしまった。
気の抜けた声を上げながら、後ろに倒れる体を、地面すれすれで助けてくれたのは、壁、いや、桑名江だった。
あ、稲穂の色。
収穫を待つ、風に揺れて輝き放つ黄金色。
前髪からちらりと覗いた瞳が眩しくて、思わずぎゅっと目をつむると、心配そうな桑名江の声が降ってきて、目を開ければ、安心したように息を吐いた。


『ありがとう、桑名』
「もう、驚いたよぉ」
『ごめんね』
「大丈夫?怪我とかない?」
『桑名が助けてくれたから平気』
「そっかぁ、よかった。でも、どうしてこんなところに?」
『あ、えっと西瓜』
「西瓜?」
『ほら、もうお昼すぎちゃったし』


そう言いながら空を指させば、その指先をたどって太陽を見つけた桑名江が、もうそんな時間だったんだ、と恥ずかしそうに笑う。


「主はもうお昼ご飯食べた?」
『うん、さっき』
「そっか、まだお腹の中あいてたりする?」
『うーん、ちょっとなら』
「じゃあ、一緒に食べようよ」


土がついた軍手で汚してしまわないようにしながら、ゆっくり体勢を戻してくれた桑名江に、なんだかとても大切にしてもらっているように感じて、くすぐったくなる。
手をたたいて土を払った軍手をポケットに押し込んだ桑名江は私の手を自然にとると、西瓜はね、と楽しそうに話しながら、歩き始めた。
時折振り返る桑名江の、前髪を風が攫って、あの稲穂色の瞳が露になる。
いつもは隠れてしまっていて分からなかったけれど。今初めて、こんなに優しい瞳で見つめてもらえていたんだ、と気付いてしまうと、握られている手が熱くてたまらなくなってしまった。



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