ひまわり畑の君

仕事の息抜きに散歩をしていると、畑の隅の方で大輪のひまわりが咲いていた。
私の背丈を追い越すほどの大きなひまわり畑の中で、ひと際白い裾がひらりひらりと舞う。
そういえば、鶴さんがひまわりを熱心に育てていると、短刀たちが楽しそうに語っていた気がする。
ふと、ひまわりの中から、麦わら帽子が飛び出た。
ゆっくり振り返って、その人とぱちり、目が合った、と思った。
けれど、その目はまるで私なんか見えてないとばかりに、ひまわりに吸い寄せられる。
ああ、だめだ。連れていかれる。
そう直感すると同時に一気に噴き出す汗に、息は乱れて、足がもつれるのも気にせず走り出す。
ひまわりをかきわけて、かきわけて、ようやく白い背中を見つけると共に、振り返った彼に飛びついた。勢いよく飛び込んだせいで、彼は尻もちをついてしまうが、私は彼の上から退きたくなかった。
さらに腕に力を籠めると、彼は困ったように息を吐く。


「おおっと、こいつは驚きだな。主からこんな熱い抱擁を受けるだなんて」
『……』
「主?」
『……』
「……いけない、日射病になってしまうぞ」


私を落ち着かせるような優しい声でそう言うと、自身が被っていた麦わら帽子を軽く頭に乗せてきたので、その行動になんだかほっとしてしまった。
いつもの鶴さんだ。私の知ってる優しい鶴さん。
体の力が抜けたのが分かったのか、顔が見えるように体を離した鶴さんとようやく目が合う。


『急にごめんなさい……』
「一体どうしたんだ」
『いえ、なんか、その、』


連れていかれる、だなんて。
今思えば、そんなことあるわけないのに、だんだんそんなことを思ってしまったことが恥ずかしくなって、口ごもってみたものの、鶴さんにその先を優しく促されてしまった。


『鶴さんがそのまま消えちゃいそうな気がして』


一瞬驚いたような顔をしたかと思えば、次の瞬間には、口を大きく開けて笑い出す。
あまりにも笑うので少し拗ねてみせると、宥めるように私の頭を軽く二度叩いた。


「そいつは笑えないな」
『冗談ではないんですけど……』
「そうだな、ひとりでなんて冗談じゃない」


風がひまわりを揺らして、まるで逃げ場をなくすかのように一斉に波打つ。
笑い声にも似たその音に、耳をふさぎたくなるが、どうしてか体が動かない。
彼に腰を抱かれ、その金色の瞳に映る私は、そこに囚われているかのようだ。


「君と一緒なら満更でもないが」


そう言って、目を細めて笑う彼は、本当に私の知っている鶴丸だったのだろうか。


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